ボクのカラダ
右手を握る。左手を握る。
そのまま指を広げ、また閉じる。
「うん。僕の思うままに動く」
瞳を閉じる。口を開く。唇を舐める。肩を動かし、腕を振るう。
ベットから落ちて、軽くジャンプする。右に一回転。次は左に一回転。
「すっごーい。体が軽い!」
僕は思わず感動する。前の僕がどういう人間だったかはまるで思い出せないが、
(こんなことを思うってことは僕はかなり年取っていたのかな? 少なくとも、
ぴょんぴょんぴょーんとジャンプを繰り返しながら、そんなことを思う僕。アクションゲームのキャラだからそうなのかもしれないが、
それでいて、バス停を振るうだけのパワーもあるのだ。こんな細い腕でそれが可能というのは現実的じゃないけど、そこはまあゲームキャラだし。
(……さっきは不意を突かれて負けそうになったけど)
逆に言えば、不意さえつかれなければ問題はない。
「2ndとかが使っていたアイテムを引き継げたりは……しないみたい」
ゲームだと同じアカウント同時でアイテムの融通がきいたりする。僕のアカウントに居た3名のキャラ。そのキャラが持っている装備や資産は何処にも見られなかった。ゲームだと部屋にあるクローゼットの中に入っているんだけど、そこには何も入っていなかった。
「2ndが稼いだ収集品とか加工品があれば楽にハンターランクとか装備レベルがあげられたんだけど……この辺りはゲームとは違うのか」
この『AoD』にレベルという概念はない。
ゾンビを倒してその『血』や『身体部位』を回収し、生徒会に提出することで『ハンターランク』と呼ばれるランクが上がる。このランクが上がれば強い装備品がもらえたり、今まで行けなかった地域に行くことが出来るのだ。
「
パニックを起こして回収する前に逃げてしまったのだから仕方ない。
「まあハンターランクはいっか。別にゲームクリアとか目指してるわけじゃないし!」
先も言ったけど、この『AoD』は既に運営が終了したゲームだ。その時の最大ランク50まであげても、島の半分ぐらいしか行くことが出来なかった。そこから先は生徒会曰く『新種のゾンビウィルスのようですぅ。解析がすむまで行くのは待ってくださぁい!』との事。それより先は誰も知らない領域だ。
何が言いたいかというと、ハンターランクを急いであげる必要はない。僕は何があるか知っているし、
「加工品がないはちょっと痛いかな」
このゲームにレベルの概念はない。そしてキャラクターの生死(厳密にはゾンビになるか否か)は、ゾンビ感染率と言う数値に依存し、この最大値は固定だ。他のゲームでいえば、HPは成長せず全キャラ固定なのだ。
じゃあキャラをどうやって強くするかというと、プレイヤースキルをあげるか加工品を使って装備品のレベルをあげるかしかない。
装備には『対ゾンビウィルス(傷口感染)』『対ゾンビウィルス(空気感染)』といった感染率を下げるもの。『攻撃力(殴)』『攻撃力(斬)』といった攻撃力を示すパラメータがある。
それらは装備品によって固定だが、『加工品』を使うことでその数値をあげることが出来るのである。そしてその加工品はレアで、ゾンビを百体倒して出るかどうかというドロップ率が激烈に低いのである。
ざっくり言えば、この『
「ま、いっか」
僕はあっさり割り切った。ないものはない。
となると、今ある装備でどうにかするしかない。
「バス停に、ブレードマフラー。制服に隠密スニーカー」
先ずはバス停。
ちなみに駅名表示は『
ゲーム的には、重量系武器だ。素の攻撃力はそれなりに高く、その分攻撃速度とクリティカル率は低い。
相手に近接する分、ゾンビから攻撃を受けたりウィルス感染が早まったりということで『AoDクズ武器ランキング』の上位に常に乗っていた。
でも見た目がイイ! シュールでカワイイ
そしてブレードマフラー。赤いマフラーに針金と小さなナイフを仕込み、動くたびに遠心力でふるわれて仕込まれた部位で切り刻む。口元を覆うことでウィルスの空気感染を塞いだりもしてくれる。
現実の物理法則とかガン無視のロマン武器で『AoD現実ではありえない武器ランキング』『AoDクズ武器ランキング』の上位を占め、こちらも誰も使わない武器筆頭だ。
でもマフラーで切り刻むとかロマン! たなびくマフラーはカッコイイ!
橘花学戦制服。言葉通り、この橘花学園の制服だ。白を基調とした黄色いスカーフのセーラー服。橘の花をイメージして作られたもので、軽くて攻撃速度を阻害しない代わりにゾンビからの攻撃はほぼ素通しだ。
動いたりジャンプしたりするたびにおへそが見えたり、スカートがふわっとしたり。そんな装備。スゴカワイイ!
そして隠密スニーカー。ゾンビがこちらを認識する『音』と『匂い』のうち、移動中の『音』を軽減してくれる足装備だ。白いスニーカーに青のライン。能力増加とかはないけど、軽くて静かな一品だ。
近接補助が多い足装備品だけど、近接攻撃は死に構成と言われているこのゲーム。それに伴って足装備は趣味かおまけと言われている。このスニーカーもその類だ。カッコカワイイ!
僕の趣味全部ブッコんだ3rdキャラだ。いろいろキモくてごめん。
「でもゲームのキャラって自分の
…………落ち着け、僕。ひとしきり叫んだ後に、深呼吸する。
ともあれゲーム的なスペックは確認できた。数回プレイした程度の世紀末ゲームの3rdキャラ。そんな存在に僕はなってしまったのだ。
バス停とブレードマフラーのボクっ娘キャラ。ゾンビをぶっ叩いて切り刻む女子校生ゾンビハンターに。
(女子校生……女子……)
僕は視線を自分の身体に降ろした。橘花学園のセーラー服。そこに包まれた自分の体。適度に膨らんだ胸と、スカートから伸びる足。すべすべの手と指。柔らかいほほ。
僕は……前の僕は男で、
オンナノコの身体。それに興味を持たないオトコノコがいるだろうかいやいない。
ゆっくりと僕は
(うわ。全部脱げるんだ。ゲームだと脱げなかったのに)
たゆん、と膨らんだ胸。そこに先端ある小さな突起。きゃしゃな体。そして太ももの付け根にある乙女の領域。一糸まとわぬ
つばを飲み込み、僕はゆっくりと
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