ボクのステータス
ゾンビと戦った者は、一旦保健室の隣に設置された検疫室に行くことになる。
そこで体内のゾンビウィルスが完全に抜けるまで隔離され、その後に保健室で検査を行う。いろいろ時間はかかるけど、ゾンビウィルスを学園内に感染させない為には大事な措置なのだ。
そっか。Now Lordingと、ステータス回復はそう描写されるのか。
「犬塚さん。もういいわよ」
「はーい」
保険担当の
そこには『AoD』公式NPCの伊谷がいた。
「それじゃ、血液検査と心拍数を測るわね」
白衣に眼鏡。そんな姿だけど彼女もこの橘花学園の生徒だ。
伊谷。通称
ゾンビが島中にあふれ出したと思ったら、突然先生たちを始めとした大人の人達は姿を消していた。最初は混乱したけど、伊谷さんみたいなNPC生徒達がその代わりを務めてくれたおかげで、何とか今が保てている。……という設定だ。
伊谷さんは慣れた手つきで採血し、見たことのない医療器具を腕に巻く。その間に応急処置でふさがった傷を見て、包帯を巻きなおす。なんだかほんわかする匂い。ゲームでは絶対に感じられない甘い感覚。
うん。妙に
この世界は間違いなく『AoD』の世界だ。僕の記憶はあいまいだけど、それは間違いない。
だけどこれがゲームだとは思えない。さっきの匂いもそうだけど、視点も採血された時の痛みも、床を踏みしめる感覚も。間違いなく現実だ。
……となると、やっぱりアレなのだろうか。ラノベとかである転生とかそういうの。とても信じがたいけど、信じざるを得ない理由があった。
この世界がゲームだと理解した瞬間に、いつでも見れるようになったものがある。『AoD』のインターフェイス。要するにステータスだ。
『Status
◆
ハンターランク:1 (次のランク上昇まで、56ポイント)
◆
◆
ざっくり説明すると、この『
これら三つを組み合わせて自由なキャラを作る……んだけど、前にも言った通り生き残るためにはほぼ銃構成の一択である。
総じて、バス停を振るってクリティカルでガンガン進むスタイルだ。
なおログアウトとかキャラ変更とかそういった要素は何処にも見つからない。それらがある項目は空欄になっている。
バリバリ重火気仕様の2ndキャラになれるかと思ったが、そうもいかないようだ。
「犬塚さん、大丈夫?」
「ほえぇ!? ダイジョブだよ! 元気元気!」
心配するような伊谷さんの言葉に僕は言ってガッツポーズをとる。
「ならいいけど……やっぱりマフラーだけでゾンビのいる地域に行くのは危険じゃない? きちんとしたマスクをつけないと」
伊谷さんが心配しているのは、ゾンビウィルス感染の話だ。
ゾンビがいる地域は、ゾンビが呼吸することでゾンビウィルスが散布されている。何もしなくても、呼吸をするだけでゾンビウィルスの感染率が上がっていくのだ。ゲーム的には時間経過ごとに感染率の数値が上がり、ダッシュすると上昇速度が増す。ゾンビに攻撃されれば、かなり増加される。
僕のマフラーはその感染速度を幾分か減少してくれる。だけどあくまで『幾分か』程度だ。ガスマスクなどをすれば『ほとんど』増える事はない。
いうなれば、
だけど、
「ヤだよ。マフラーはボクのトレードマークなんだ!」
言ってポーズを決める
でも嫌な気分じゃない。むしろ気持ちいい。身体が勝手に動くような不便さはあるけど、それを超えるぐらいに開放感があった。前世の僕も、ゲームをしていた時はそんな感じで
「分かったわ。でも無理はしないでね」
「はーい」
軽く手をあげて、保健室を去る。そのまま学園内を進み、学生寮に向かう。ゲームでいう『マイルーム』。いわゆる
バス停を重石に挿し、固定する。そしてブレードマフラーをクローゼットにかけてベットに横になった。その瞬間に睡魔が襲い掛かってくる。このまま寝ちゃうと楽なんだろうなぁ、と思いながらまだ寝ちゃダメだと頭を振って半身を起こす。
とにかくここは『AoD』の世界で、僕はそこに転生してきたのは間違いない。
その前提を認めたうえで、いろいろ疑問はわいてくる。
「あ、ああ、あー。ボ、ボ、ボ、ボクの名前は犬塚洋子。うん、それは間違いない」
何度も記憶を再確認するように、自分の名前を呟く。
前世の僕の名前やどんな人間だったかは、全然浮かび上がってこない。『AoD』をやっていたことは確かだけど、それだって昔の話。サービス終了してからは別の事をやっているはずだ。
なぜ『AoD』なのか? なぜ3rdキャラの
疑問に答えてくれる存在はない。自分で解決しようにも、その取っ掛かりも分からない。
…………。
「ま、いっか」
となると、次は現状把握だ。
「数値的な面はステシ通り……なんだけど、実際の所どーなんだろう?」
ゲーム内のステータス。それはゲームの感覚で理解できる。
だけど現実……未だに現実と受け入れ切れていない僕だけど、
精神的には僕と
僕は
それこそゲーム的に例えるなら、操作するコントローラーを持っているのは僕になる。だけど、キャラクターとしての
……砕いていうと、
とにかく、いろいろ試してみよう。
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