ボクと僕
僕は記憶を呼び起こす。
前世と呼ばれる記憶を。
『アカデミーオブザデッド』
『
南海に浮かぶ『
だが、突如そこにゾンビが大量発生。大人達はいつの間にか姿を消し、島からの脱出手段はすべて失われる。残された生徒達は生き残るために戦うのであった……。
『君よ、学園から再生せよ』
そんなキャッチコピーのゲームだった気がする。気がする、というのはこのMMOは既にサービス終了していて、今では酷ゲームスレッドに時折名前が上がる程度なのだ。よく覚えていなくても仕方ないよね?
キャラクターはその学園都市の生徒で、六種類ある小中高一貫性の『学園』や、キャラの『性格』、そしてキャラクターが持つ『特殊能力』。そして様々な装備品などを組み合わせ、自由なキャラ作製がが可能なゲームとなっていた。
なっていた、と強調こそしたがキャラのカスタマイズ自体は可能だ。だが、それを不可能としている状況があったのだ。
それがこのゲームの仕様。いわゆる『世紀末ゲーム』とまで言われた難易度だ。
このゲームのゾンビはウィルスで発生する。ソンビの側に居たりゾンビがいるエリアに居たり、またゾンビの攻撃を受けることで体内にゾンビウィルスが蓄積されていく。そして臨界点を超えた時に意識を失う……ゲーム的には感染率100%を超えた時に大ダメージを受けるとゾンビになるのだ。
それを避けるにはあまりゾンビに近づかず、噛まれる前に攻撃するのが一番だ。
故にゾンビを倒すのに最も効率がいいのは、銃器などで遠距離から攻撃することだ。ゾンビから攻撃を受けず、高火力を持つ銃器。逆に言えば、これ以外の武器はほとんど……8割9割が役立たずになる。
そうなると、キャラ構成は銃を中心としたものになる。『学園』は軍事系の『氷華学園』一択。特殊能力も重い銃をい上手く扱える『重火器装備熟練』か沢山装備を持てる『重装備』とか。
そして性格だけど、このゲームは『激情』と呼ばれる感情の揺れ幅がある。ゾンビから大ダメージを受けたり、ゾンビウィルスの『感染率』が高まると激情の数値によっては『パニック現象』を起こしてしまう。
性格によって『パニック現象』の内容は変わるが、
故に性格も事故防止を含めて『冷静(すべての激情判定に一定のプラス修正がある)』か『ひとでなし(仲間がパニック・死亡しても動転しない)』、次点で『豪胆(自分がダメージを受けても動転しない)』あたりが選ばれることになる。
そしてこれが最大の理由になるが、このゲームでは死亡したキャラクターはゾンビ化してしまう。キャラロストではない。ゾンビ化して、敵となって出てくるのだ!
つまり、育てたキャラクターの強さと装備がそのまま敵になってエリアを彷徨うのだ。その結果、エリアの難易度が激変する。下手をすると、スタート地点近くの敵が超強化されて初期装備では詰み状態になるのだ。
そんなわけで、皆死なないように重火器冷静かライフルひとでなしなキャラが大量生産されることになる。判で押したかのようなスキル構成で、みんなビルの屋上からライフル狙撃か重火器と手りゅう弾を投げることとなった。こうして『AoD』は銃ゲームになったのだ。ある意味現実的なのかもしれない。面白みはないけど。
かくいう僕も、そういうライフルひとでなしキャラが1STキャラだった。前衛がいないこともあり、ゾンビに殺されてビルの屋上で狙撃するゾンビの仲間入りしたけどね。
課金をすればゾンビ化しても個人のアイテム倉庫にアイテムが戻ってきたり、キャラのクローンが作られてキャラロストを防げたり(でも自分のゾンビはいる)するのだが……そんな露骨過ぎる課金要素も相まって、離れていくプレイヤーが続出した。
そしてゲームは半年で終了。最後のイベントはゾンビ大量発生で、俺達の戦いはまだまだ続く。この見果てぬゾンビ道をな! な終わり方だった。
で、【
『学園』は六学園の中で『普通』が特徴の『橘花学園』。貰ったスキルはクリティカル率が上がる『ラッキーアイテム』。クリティカルが上手く決まると、部位破壊ができるのだ。
『性格』は誰もが選ばない『お調子者』。ゾンビ感染率が低い状態なら攻撃速度が上昇するけど、一定値を超えるとすぐにパニックになるスタートダッシュ系。
『特殊能力』も銃とは無関係な『両手武器適正』を。近接両手武器の攻撃に修正がつくものだ。近接武器の価値がゴミ同然なので、この能力も同じゴミ扱い。誰も使いやしない。
装備もアイテム倉庫の中から使わないネタ武器を組み合わせたものだ。見ただけでわかるネタ武器の『バス停』。ダッシュ移動時に周囲にダメージを与える『ブレードマフラー』。音を立てない『隠密スニーカー』に、初期装備の橘花学園制服(いーじゃん、かわいいんだもん!)を攻撃速度特化に改造した物。
バス停を高速で振るうマフラーセーラー服ボクっ娘。
うん、僕の趣味に走ったキャラなのは否定しない。
まあ、そんなお遊びキャラだ。そこそこ楽しんだのは確かだけど、サービス終了と共に記憶から消えていた存在だった。
…………。
……。
え、待って? 僕は【
いや、それよりも! いままさにゾンビに殺されようとしてるんだけど! 起きろぉ、
「んあっ!? やばば!」
僕は目を覚ますと、迫っていたゾンビの鼻頭に蹴りを叩き込む。少し噛まれたけど、その動きを止めることに成功した。自分の腕を掴んでいるゾンビの指を振り払って拘束を緩め、勢いよく転がるようにして距離を離す。
落ち着いて状態確認。パニック状態は解除されている。手足は動く。よし!
「逃っげろー!」
訳が分からない。とにかく落ち着いて考えられる場所に戻って状況を確認しなくちゃ!
ここが『AoD』の世界なら、ここは橘花学園近くの『橘花駅』のはず。うん、記憶にあるぞ。少し行けば橘花学園――このキャラのホーム的な場所がある!
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