第3話
○ ハンバートの語りが自在すぎること
ハンバートは、ロリータとの思い出について語っている。自分の生い立ちにロリータの面影を見つめながら、ロリータとの別れまでを回想している。
さらに、ハンバートがどのような所で『ロリータ』を執筆しているかというと、拘留中で監視をされながらである。ゆえに陪審席の人に、自分の罪がどのようなものかを語りかける。
そして、読者にも同意を求めるような素振りまで見せている。出版されることを前提にした書きっぷりは、通常の一人称小説では見かけない道化のような振る舞いである。
ゆえに、今、何について語っているかが段落ごと、時には一文の中で切り替わる。ロリータとの過去から自分語りへの変換は当たり前、そこから突然陪審席の人に語りかける。
こうなると、読者は今何が起きているのかを把握することが困難になる。するとどうなるか。読むのをやめるという人、自分の好き勝手な読解で終わる人など。新潮文庫の裏表紙に誤解多きと言われる由縁がここにあると思われる。一度『ロリータ』を読み終えた人は、本当に『ロリータ』を読んだのか? 私が初読時に感じたことは、この辺りが理由である。
次回からは、内容に少し踏み込むので、ネタバレがあるかもしれません。
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