(ⅵ)

「うわぁぁぁっ‼」

 俺は、ヤツらに向って走っていく。

 「ニワトリ」男がメガネっ娘に「ちゃんと撮影してるか?」と言ってるのが聞こえたような気がしたが……狼男と化した今村の怒号にかき消された。

「あんた、何をするつもりだっ⁉」

 俺が「斧」を振り落すより、今村が俺に体当りするのが一瞬だけ早かった。

 俺は弾き飛され、尻餅を付いた。

 立ち上がろうとしたら、あまりに妙なモノが目に入る。

 魔法使いのように、指で空中に何かを描きながら、口を動かしてるヤツが居る。

 だが、それをやってるのは……一匹の猿だった。

「何っ?」

 猿から、俺の方に「光の縄」のようなモノが飛んで来て……待て、たしか、この「斧」は……。

 「光の縄」を「斧」の刃で受けると、一瞬だけ「斧」が黄緑色に輝いた。俺の親父を呪殺した異形の天使と同じ色……。そして、「光の縄」が消える。

 ほぼ同時に背後うしろから何かの気配を感じる。そこには、あの……異形の天使が出現していた。

 雄ライオンの顔、人間の女の体、足の代りに蛇の尾……そして……天使の翼。

「くたばれっ‼」

 「ニワトリ」男の叫び。

 異形の天使はヤツらに向けて何本もの矢を放つ。しかし、またしても空中に光る格子模様と……そして、今度は光る梵字のような紋章まで現われて矢を防いだ。

 次の瞬間、何故か辺りが急に明るくなる。

「え……あれ……は?」

「違う……俺の……『使い魔』じゃ……ない……。まさか……」

 空には、鳥は鳥でも、「ニワトリ」男の「使い魔」より何倍も巨大な炎の鳥が出現していた。

 炎の鳥の翼がはばたくと、無数の炎を矢が俺達目掛けて降り注ぐ。

 だが、異形の天使は、それより、ほんの一瞬だけ早く姿を消した。

「いい加減にしろっ‼」

 レナが叫びながら俺に駆け出そうとしたが、横に居た誰かがレナを押し止める。

「なぁ……こう云う魔法は有るか? 他人の『火事場の馬鹿力』を引き出す魔法」

「ま……待って……下さい……。そんな事をしたら……」

「あぁっ? あいつらが俺の代りに『英雄』になるのを阻止しろ……そう言ったのは……そいつだぞ」

 俺は、「ニワトリ」男を指差した。

「判った……でも、責任は取れんぞ……。お前の意志でやった事だ……。確実に……1〜2週間は入院する羽目になるぞ」

「大丈夫だ……俺は……冷静だ……。

 「ニワトリ」男の顔が青冷める。

 薄々は判っていた。さっき、「ニワトリ」男は、俺の心に何かをしたらしい。だが……そのせいか、俺の心は極めて冷静だ。自分でも、事だけは判っている。

「あと……あんた達の親分の『使い魔』を、あんた達が使えたのは、どうしてだ?」

「それは……俺達の中に……総帥グランドマスターとの魔法的な『つながり』が有るからだ……。一回の『処置』につき一度だけ総帥グランドマスターの『使い魔』を借りる事が出来る『つながり』がな」

「それ、ひょっとして、俺も、その『処置』をされてる? もし、あんた達が……あの晩、既に、俺を『英雄』に仕立て上げるつもりだったら、だけど」

 俺は、そう言って、あの晩、「ニワトリ」男が俺に埋め込んだ「GPS」の辺りを指差した。

「ああ……」

「じゃあ、頼むわ……。今すぐ、俺の『火事場の馬鹿力』を……引き出してくれ……」

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