第7話

 王太子ロアンは、王宮内の豪奢な寝室のベットの中で、怒りと屈辱と激痛に苛まれていた。

 心臓が脈打つたびに、急所に激痛が走り、時に頭の芯まで痛みを感じるのだ。

 激烈な痛みが屈辱感を更に煽り、怒りが元々少ない理性を上回ってしまった。


「誰かある。

 アントリム公爵が謀叛を企んでいる。

 アントリム公爵家にマリアとの婚約破棄を通達し、同時に詰問使を送れ!」


「しかしながら殿下。

 そのような重大事は陛下の御裁可を頂きませんと……」


「これを見よ。

 これはアントリム公爵家のイアンがやりおったのだ!

 余を殺そうとしおったのだ。

 これを見ても不足を申すか!

 余の言う通りにしろ!

 言う通りにすれば、余が国王になった暁には、大臣の取り当ててやる!」


 最初は卑屈に身を小さくしながら、真っ青な顔で王太子の言葉を聞いていた側近が、将来大臣に取り立てられると聞いて、背中に棒を入れたように直立不動になり、瞬時に真っ赤に上気した顔のまま部屋から飛びだしていった。

 殿下の気が変わらないうちに、既成事実を作ってしまおうと、後先考えずにアントリム公爵家に使者に立った。


 一方使者を迎えたアントリム公爵も内心激怒していた。

 その怒り具合は、使者に立った王太子の側近が、小便をちびりそうなほどだった。

 事もあろうに、期待の跡継ぎアベルに、王太子が刺客を送ったと言うのだ。

 許せるはずがなかった。

 

 怒りで血が全身を駆け巡り、上昇した体温が汗をふきださせ、まるでオーラのように汗が白く蒸発していた。

 鬼の形相となった顔は、激しい血流で真っ赤に光り輝いていた。

 無理に怒りを抑えようとしても、抑えきれない怒りが手足をプルプルと震えさせ、無意識に剣に手をやっていた。


「父上。

 王太子がアベル兄上に刺客を送った事と、マリア姉上を暴行しようとした事、更にはそれを糊塗しようと、アントリム公爵家に謀叛の疑いをかけ、マリア姉上との婚約破棄を通告してきた事。

 全て国王陛下に御知らせ致しましょう。

 いえ、全貴族士族に知らせましょう。

 その上で戦の準備を致しましょう」


 イアンは、余りに急に掌を返して王太子に激怒する父に呆れ、同時に愚かな決断をした王太子の事は嘲笑していた。

 愚者としか言えない王太子なら、聖騎士であるアベル兄上の言動に嫉妬と怒りを覚え、殺そうとする事など予測できそうなものだが、欲と親馬鹿に心と頭が一杯になっていた父の眼は、曇り切っていたのだと思い至った。


 そんな父を上手く誘導し、国王に圧力をかけて決断させようとした。

 アントリム公爵家と敵対して内乱を勃発させるか、王太子を処分するかの決断を迫るなど、イアンは随分な性格をしていた。

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