第3話 いつも通り

夏休みも明けてしばらく経つが、いまいち暑さが消えない頃。文化祭に向けてクラスが本調子になってきた。それもそうだ。1年生ながら、圧倒的なくじ運で引き当てた飲食販売を無駄にはできない。特に女子は気合が入っている。

愛華はクラスの中心人物としてクラスをうまくまとめている。

対する男子は…みなさんが想像するくらいのやる気だと思っておいてほしい。男子はノリで動く生物である。女子のように計画性を持って準備ができない。俺もその一人である。

女子の指令で作業をするのみ。

この頃には死神云々の話は気にしないようになっていた。慣れだろうか?

正直、愛華のことで頭がいっぱいだった。

ほんとに彼女の心が読めない。父親の影響からか、人の心を読むのは得意な方だった。

しかしこのことになるとまったくの逆になる。

恋愛は厄介であり、憎めない。


文化祭まであと2週間まで迫った昼休み。

「また芋ってるんかよ。」

明良(あきら)はスマホを片手に馬鹿にするように笑いながら俺に言ってきた。彼は典型的な陽キャラというやつだろう。元カノとはビビって手が繋げなかったと言っていたが、普段の感じから考えると不思議だ。

明良からの煽りの言葉が止まらないが、俺は恋愛に関しては臆病だ。あのポルノグラフィティも大好きだから臆病になると言っているのだから、多くの人も同じなのだろうが…。

しかし、俺には他の人以上に臆病になる要因がある。予想できるとは思うが、死神の血だ。

俺に流れる死神の血によって、人の死が見えてしまう。

俺はそれが怖いのだ。愛する人の死を見てしまうのが。それに父親曰く、死神の血を引く者の周りは死にやすくなるらしい。恐らく、死神の血を引く俺と父親は死神側から見ても目立つ存在なのだろう。隣の隅田さんの奥さんや父親の大学時代の友人である黒木さんも俺と父親に引かれた死神に憑かれたということなのだろうか?父親がいない今、その仕組みについて知る方法はない。

つまり、俺が愛華に深く関わり、彼女に不幸が降りかかるのが怖いのだ。そんなことを明良は知る由もない。一生つきまとうこの力。しかし、今はそんなことすぐに忘れてしまった。


「ここって赤色やんなー?」

スマホに映る画像を見せながら明良は隣の女子に聞いている。内装の看板の色塗りは地味な作業ではあるが、面倒くさい。ペンキが服に付けば取れないし、まず、綺麗に塗る事が難しい。この気持ちは今、色塗りをしている面々の多くが思っているだろうが、皆の思いは文化祭をより良くするということで一致しているだろう。


「あっ!いいやーん!」

色塗りもあともうひと息というところで愛華がやってきた。愛華はずっと4階の教室で作業をしていたが、一通り終わったからか、下に降りてきた。

愛華はその後体育館横の自販機で全員分のジュースを買ってきた。バイトをしているおかげで、経済的に余裕があるのだろう。その色塗りはその日中に終了した。

そこから本当に忙しい日々を過ごした。商品の買い出し、内装の飾り付け、文化祭前日は明日への期待感と少しの不安の入り混じった気持ちだった。

同じ部活の大二郎に買ってもらったカフェ・ラテを少し口に含み、思いを馳せた。



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