第2話 過去と今
「おはよー。」
いつもの集合場所に純平は眠そうな声でやってきた。
「おい!昨日の通り魔のニュース見たか!?」
いきなり純平はさっきの眠そうな声から打って変わって、学校の時と同じような元気な声で聞いてきた。
「あぁ、市駅の近くのやつやろ?見たで。」
昨日からこの街は通り魔事件の話で騒がしい。
それもそうだ。自分たちが住む街で通り魔事件が起きて、落ち着いている人間は犯人とほんの一部の人間だろう。
そんな話をすると、あたかも俺はそのほんの一部の人間かのようになるが、まったくの逆だ。
最近、死神絡みの話がやたらと気になり、落ち着かないのだ。
今朝、ふと思い出した、隅田さんの奥さんが亡くなった時の話。これが大きな原因だ。
黒い人影を見たその日の夜。
不思議に、そして小さいながら恐ろしく感じた俺は、絶大な信頼を置いていた父親に黒い人影を見たこと、隅田さんの奥さんはもうすぐ死ぬと感じたことをすべて話した。
すると、父親はしばらく間を置いてから話し始めた。
「守も見えるようになったのか。」
初めは何を言っているのか理解できなかった。
しかし、父親の顔を見て、なにか大事な話だと悟った。
「いいか守。これから話すことはお父さんとの秘密だ。母さんにも、学校の先生にも誰にも喋っちゃだめだ。」
この時の父親は威圧感があり、心が読めず、黒い人影以上に怖く感じた。
「お父さんは死神なんだ。いや、昔、死神だったんだ。」
意味が分からない。正直、そう思った。
父親が海外の童話や怖い話に出てくる死神なんて、
まったく現実味がない。
「たぶん意味が分からないと思うが、時間が経てば嫌でも理解してくると思う。」
その言葉通り、これまでの経験と照らし合わせて、だんだんと父親から受け継いだであろう俺が持つ能力について理解してきた。
死神が見えること。
そして、死期が近づいた人間の残りの寿命が分かること。
この時、俺は死神の子として、避けられない苦しみがあることに気づいてしまった。
正直、この能力は生活するには不便だ。
嫌でも死神が憑いているのが見えるし、その憑かれた人間が死ぬことが分かってしまう。それも残りの寿命もご丁寧に教えてくれる。
これまで、多くの死神に憑かれ、死期の近づいた人間を見てきた。
どの人を見た時も、この、今生きている人間も間もなく人生を終えるのだなと思ってしまうのは、心が痛む。俺が父親を憎む唯一の点だろう。
そんな考え事をしながら、いつも通りの道を機械のように迷うことなく高校へ向かう。純平が昨日のドラマの感想を話してくれるのだが、今日に限ってはまったく内容が入ってこない。
高校の駐輪場に自転車を停めた俺は、校舎への長い階段に加えて、4階の教室への長い階段を昇り終わると、教室に入るやいなや、カバンを置いてトイレへ向かう。これがいつものルーティンだ。
「おはよう。」
明るいが声質はハスキー気味の声が飛んできた。
前からその声の主である同じクラスの愛華が歩いてきた。愛華とは部活が一緒で、クラスの女子の中では一番仲が良いだろう。
俺は今、分かりやすく、彼女に惹かれていた。
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