第53話


「華は優しいね。でも、全員は幸せにはなれない。それが掟なんだ。この世界は優しくも残酷なんだよ。」


「でも!きっとどこかに皆が幸せになれる道があるわ!」


「…華は優しすぎるよ」


私だけ幸せになれても、それは本当の幸せじゃない気がする。

私は凪にそっと抱かれながらこれからどうすべきなのかを考える。

まずは、アンナ嬢のいじめをどうにかしないといけない。

今は全然対策がとれていないから、アンナ嬢が被害にあってしまっている。

アンナ嬢は強いから何も言わないが、隠していても辛いんだってことはわかる。

皆が幸せになれたらいいのに。


「凪、アンナ嬢がいじめられないためにはどうしたらいいのかしら?」


私だけでは、いい考えが浮かばない。思わず凪に頼ってしまう。

思えばいつも凪に頼っていたかも。


「アンナ嬢をいじめているのは、誰?」


「アクドーイ公爵令嬢だわ」


そうアンナ嬢をいじめる首謀者はアクドーイ公爵令嬢。

彼女をどうにかすればいいの?


「華、アクドーイ公爵令嬢を仲間にしてもだめだよ?」


「どうして?和解すればいいんじゃないの?」


いじめてくる相手と仲良くなれば、必然的にいじめられなくなるのではないか。安易にそう考えてしまったが、凪にそれではダメだと反対それる。


「華、この世界は乙女ゲームが軸になっているんだ。アクドーイ公爵令嬢を仲間に引き込むと新しい悪役令嬢が誕生するだろう。少なくともアンナ嬢が幸せになるためには、ゲームのシナリオを進めていかなければならない。つまり、悪役令嬢は必須であり、アンナ嬢がいじめられることも必須なんだよ」


凪が優しく教えてくれる。

でも、シナリオを進めるってことは…。


「シナリオを進めるってことは、悪役令嬢は断罪されなければならないの?」


「そうなるね」


ゲームのシナリオ通りに進む世界では、シナリオにそった行動をしないと、どこかで調整かとられてしまうらしい。

悪役令嬢もその一つらしい。

悪役令嬢がいなくなれば、必然的に次の悪役令嬢が産まれてしまう。そして、最後の悪役令嬢は必ず段座される。


誰かは必ず幸せにはなれない。


「どうして…」


「それが、この世界の掟。これは変えられない」


凪は、あやすように私の背中をポンポンと軽く叩いた。

でも、誰かが悪役令嬢になって断罪されなければならないのならば。

それならば…。


「凪、私が悪役令嬢になるわ」

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