第54話

最初のシナリオ通りに私が悪役令嬢になれば、断罪されるのは私ということになる。

誰かが悪役令嬢として断罪されなければならないのであれば、私が予定通りに断罪されればいいだけである。

断罪っていっても死ぬわけではないのだ。

ただ実家の地位が悪くなって、私は遠い地方の修道院に送られ監視されながら生活を送るようになるだけだ。

辛いけれども、死ぬわけではないし。

前の世界でも似たような生活だったし。

生きているだけで幸せだと思うし。もしかしたら今度は修道院で猫を飼ってもいいかもしれないし。

まあルートによっては死ぬ可能性はあるわけだが。アンナ嬢がハーレムルートを選ばない限り死ぬことはないわけで。アンナ嬢がハーレムルートを選択するようには思えないので安心だ。


「華はそれでいいの?どうして、華はいつも自分を犠牲にするの?」


凪が、苦し気に呟く。凪としては、私に悪役令嬢になってほしくないようだ。

でも、もともとは私が悪役令嬢として転生してきたこの世界だもの。

私が落とし前をつけるしかない。


「大丈夫よ、凪。私は幸せよ。だって凪が傍にいてくれるもの。ねぇ、凪。貴方が神使だってことを理解しているうえで言うんだけど、私が断罪されて修道院に送られたら一緒に来てくれる?」


「もちろん!もちろんついていくよ。今度こそ華と一緒に生きたい。生きていたい」


「ありがとう。それなら私はどんな地だって幸せになれるわ」


凪はとうとうその瞳から涙を流しながら私をぎゅっと抱き締めた。


「ほんとうはね、華を王妃にしたかったんだ」


王妃って?王妃?

アレクサンドライト様のお妃様?

つまり、春兄の奥さん?


「それは無理。生理的に。春兄は春兄でしかないし。そんな重圧は、私には無理だわ」


「そうなの?でも、春がそれが一番いい選択だって言ってたよ」


「…春兄?」


いったい春兄は何を思ってそんなことを言ったのだろうか。

春兄にとっても私は妹でしかないのに。


「僕は華をサポートする。華が悪役令嬢としてイベントをこなせるようにサポートするから」


「ありがとう、凪。助かるわ」


それにはまず、アクドーイ公爵令嬢に悪役令嬢を降りてもらわなきゃね。


「華、僕も君を手助けするよ」


突然、凪の部屋のドアが開いてアレクサンドライト様が顔を出した。とても、良いタイミングで来たので、もしかしてずっと部屋の外で聞き耳を立てていたんじゃないだろうか。

聞いても答えてはくれないと思うが。


「でも、この状況になったのは春兄のせいなのよね?春兄が私を間違えて悪役令嬢として転生させたから」


「でも、ヒロインとして華が転生していたら、代わりの誰かが悪役令嬢になっていたね」


「ぐっ」


春兄に嫌味は通じないようだ。

もしかして、春兄は私の性格を理解したうえで、わざと悪役令嬢に転生させたのではないだろうかと、ふと思ってしまった。

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