第13話「限りなく軽い愛を込めて」


 短命の天才作家・榎垣千景の遺稿は、彼女が憧れた鬼才・神代雪との連名で発表された。なんでもその遺稿は「未完の逸作」だったらしく、それを読んで感銘を受けた神代雪がこれを発表しないのは勿体無いと編集社に掛け合い、自身の手で完結させて連名で刊行したという話である。


 彼女は出版に反対だったという噂もあるため実際のところはわからないが、その作品がミリオンセラーになったのは言うまでもない。サイン本は飛ぶように売れ、映画化、アニメ化までとんとん拍子に決まっていった。今度の本屋大賞はこれで決まりだろうという声もある。続編への期待も高まっているが、彼女にその気はないようだった。



「ね、だから言ったでしょ?神代先生が書いた恋愛小説は絶対売れるって」


 そう笑う男を横目に、女は頬を膨らます。


「まったく……原稿破り捨てた時にはどうなることかと思ったけど。丸く収まってよかったわ」






 主人公は同性愛者の女子高校生。初めて恋をした異性は同性愛者で、彼女は一旦その恋を諦める。しかし数年後、二人は再会して友人として語り合う。



『愛なんて、あなたに贈るにはあまりにも陳腐で簡素で、平凡すぎる言葉だから。私はもっと平凡な言葉の羅列に、特別な意味を込めて贈りたい。感情の重さに、あなたが潰れてしまわないように、限りなく軽い愛を込めて』





 私ずっとね、あなたの隣に堂々といられる私になりたかったの。



 奇遇だね。僕もずっと、同じことを考えてた。

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