幕間 「波打つ」


 千景ちゃんのデビュー作は飛ぶように売れた。雪が昔書いた本も、再び脚光を浴びた。


 長い1年だった。


 色んなものが変わった。

 千景ちゃんは命を削るみたいに精力的に執筆を続け、逆に……雪は筆を折った。

 2人は時々連絡をとりあっているらしいが、会う頻度は少なくなって。比例するように、千景ちゃんは元気がなくなっていった。


 言葉を吐き続ける、人形のように見えた。




 その様がまるで、出会ったばかりの雪のようで。

 また同じ失敗をするのかな、なんて、私は自虐的に唇を歪めた。






 *・.。*゚・*:.。❁




 私は小学生の頃から本を読むのが好きで、詩とか作文とか、文章を書くのが好きだった。


 小説家になりたい。私も本を書いて、誰かの心を震わせたい。響く言葉が書きたい。


 ずっと、そう思っていた。



 大学で文学を勉強して、奥深さに感動して、自分の才能のなさを実感した。

 それでも、諦めたくなかった。



 とにかく本に関わっていよう。最初の気持ちを忘れないように。そう考えて大手の出版社に勤め始めたけれど、私はまだ作家になる夢を諦めてはいなかった。

 休みの日は家やカフェで執筆に勤しみ、空いた時間にメモ帳を埋めていた。





 そして、13年前。

 私は彼女に出会った。



 鬼才。

そう呼ばれた雪は、才能の塊だった。

 圧倒的な差を感じた。

 あぁ、彼女は神様に役割を貰っているのだ、誰かの心を揺さぶって、その人生を変えるような、特別な役割を。



 私は文章を書くのをやめた。


 同時に、新しい夢が出来た。




 雪の才能が多くの人に認められるように、彼女の言葉がより遠くまで響くように。彼女のサポートを全力ですることにした。


 していた、つもりだった。




 私は、彼女の才能を使い潰した。



 売れ行きが悪くなる本、増えるペンだこ。

 それでも彼女は書くのをやめなかった。


 私は雪の担当を外れた。




 罪悪感。


 次は、次こそは。

 そう言い聞かせるように仕事を続けて、私はまた、眩い星に出会った。




 今度こそ失敗しない。


 今度は、間違えたりしない。

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