第1話 「干渉する人(前)」
呆れるくらい、変わっていない。
薄汚れた絨毯、やけに明るいシャンデリア、品定めするような視線。
審査員として式典に参加するのは初めてだった。
品定めされる側から品定めする側への昇進は、あまり心地いいものではなかったが、招かれてしまったものは仕方ない。こちらも仕事できているのだから、給料分は働いてやろう、という意識はある。
「続いて、審査員特別賞、川崎千景さん」
隣の作家が立ち上がり、偉そげで仰々しい講評を宣う。受賞者の1人がマイクの前に進み出た。
無表情で、無感情。
昔の自分を見ているみたいで、私は胸くそ悪い気分を飲みこんだ。
プロフィールの情報によれば、年齢は17。
小娘が、と小声で悪態をつくと、彼女はおもむろに口を開いた。
「審査員特別賞をいただきました、川崎千景です。今回私は、大賞よりも金賞よりも、私にとって価値のあるこの賞を受賞出来たことを、光栄に思います」
年齢不相応な、しっかりとした口調だった。
やかましいフラッシュの音に負けじと、彼女は続ける。
「私が初めて読んだ小説は、『在りし日のサクリファイス』。私が15歳のときでした。それから作家を志すようになり、『エンドロール』『九十九里』『啓示』……。私は、神代雪先生の小説しか読んだことがありません。神代先生の小説と共に生きてきました。…だから、神代先生が審査員を務めるこの賞に応募させていただいたんです。これ以上、名誉なことは無いと思っています」
突然の指名、静まり返る会場、集まってくる視線の束に、私は頭を抱えた。
こうして、川崎千景は、鬼才、榎垣千景として鮮烈な小説家デビューを果たしたのだった。
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