第16話 なんとかかんとか

本間と長沼が話し合っている部屋に、綿谷の来訪と話しの内容を説明。

2人が、捜査本部に出てきたところで勘太郎が、もっとも重要なことを話した。

『綿谷さん・・・

 沙織ちゃん・・・

 遥香ちゃん・・・

 楢岡の裁判になったら、証

言を、お願いしたいんです。』

3人に否やはなかった。

綿谷が、勘太郎に質問した。

『若旦那さん・・・

 楢岡君は、なんで笑気ガス

 を使ったんでしょう。

 笑気ガスの方が使い易いと

 は言いましたが。』

勘太郎は、3人の方へ向き直して。

『楢岡のお父さんが、旧日本

 陸軍の731部隊の司令官

 やったんです。

 で、大津市の山中に当時の

 残りが隠されていることを

 、知ってしまいよったとい

 うことですわ。』

綿谷には、それだけで理解できたが、星本沙織と月黄泉遥香には、ちんぷんかんぷん。

『731部隊いうのんは、第

 2次世界大戦中に、日本陸

 軍にあった、ガス部隊や。

 当然、毒ガスの研究と製造

 もやったけど。

 部隊の正式名称が、防疫研

 究部やさかいなぁ。

 医療用の笑気ガスも様々な

 濃度で作ってたっちゅうこ

 とやな。

 負傷した兵隊さんの治療も

 重要な仕事やったんや。

 その余り物が、大津市の山

 に隠されてたのを、楢岡が

 知って、君達に使ったっち

 ゅうことや。』

そこで。勘太郎は思い出した。

『警部補・・・

 楢岡のお父さんは。』

『まさか、今の時代に、息子

 の不始末ぐらいで。』

とは言うものの、木田も不安になって。

『勘太郎、楢岡の実家見に行

 くぞ。』

いつものGTRの覆面パトカーで楢岡の実家前に到着した時、救急車とミニパトカーが停車中。

木田と勘太郎は胸騒ぎがしてきた。

2人が、あわてて走り込むと。

婦人警官が2人と救急隊員が3人で倒れている高齢の男性を取り囲んでいた。

『おじゃまします。

 府警察本部捜査1課凶行犯

 係の真鍋と言います。

 何かあったんですか。

 この方は、まさか楢岡堅太

 郎さんですか。』

捜査1課の新しいエースと言われる勘太郎が突然現れたから、さぁ大変。

『警部補、遅かったです。』

木田がのそっと入ってきて。

『遅かったか。

 令和の時代に切腹って。』

2人の会話に、婦人警官と救急隊員は驚いた。

事件とも事故とも言ってない。

自殺とも他殺とも言ってない。

にもかかわらず、切腹による自殺を言い当てた。

『いや、まだ生きてはります。

 第二日赤病院から受け入れ

 オーケーの連絡が入りまし

 たので、救急搬送にかから

 せて下さい。』

救急隊員達が、急ぎはじめた。

『奥さんの通報が早かって助

 かりそうです。』

見れば、部屋の奥で高齢の女性が震えていた。

『奥さんは、我々と救急車に

 乗って下さい。

 木田警部補さんと真鍋刑事

 さん。

 できましたら、第二日赤病院

 まで先導お願いします。』

さすがに救急隊長、落ち着いててきぱきと依頼してきた。

もちろん全員がその行動をとった。

婦人警官は、ミニパトカーで最後尾からついてくる。

『うわぁ~・・・

 あの有名なGTRの覆面で

 しょう。

 救急車だって3000のタ

 ーボ車やし。

 ミニパトでついて行けるか

 なぁ。

 それにしても、贅沢なこと

 になったわねぇ。

 夢見てるみたいやわ。』

婦人警官がミニパトに乗り込んだと同時に、勘太郎のGTRが豪快なエンジン音で吠えた。

楢岡堅太郎の奥さんが救急車に乗り込んで、覆面パトカー・救急車・ミニパトカーという車列がスタートした。

さすがに、3台の緊急車両のサイレンは、けたたましい。

病院に到着すると、医師があれこれ訊ねてきた。

『まずは、あなた方は自殺未

 遂を見ていたんですか。』

救急隊員が。

『奥さんからの119番通

 報で、症状確認の時にお腹

 を切らはったと聞いて、警

 察に通報しました。

 で、こちらの婦人警官さん

 が現場に来て下さいま

 した。

 そこへ、こちらの刑事さん

 達が突然。』

『なるほど、単なる自殺未遂

 事件ではないようですね。

 あなた方は。』

医師に聞かれた木田。

『私は、府警察本部捜査1課

 凶行犯係係長の木田警部補

 であります。

 こいつは、部下で相棒の真

 鍋刑事です。

 しかし、なんでご主人は

 そんな急いで。』

木田と勘太郎には、そこが疑問だった。

楢岡小太郎が真犯人で逮捕されたことは、箝口令を捜査本部に強いたので、楢岡堅太郎が知るとは思ってなかった。

だからこそ、ゆっくり構えていた。

『テレビの記者さんが、小太

 郎の逮捕を教えてくれま

 した。』

取材は禁止されていなかったため、家族の談話を取りに来たようだ。

『記者達を責めることはでき

 ませんね。

 東山安井のアパートに向か

 っている時から、こうなる

 予測してたのに、手打たへ

 んかった僕の責任です。』

それまで黙って震えていた奥さんが口を開いた。

『いえ、小太郎の不始末を陛

 下にお詫びするって今時

 ねぇ。

 ましてや、元々は、罪を犯

 した小太郎が。』

『ご主人は、ご立派やと思い

 ます。

 ご主人が、旧日本陸軍の少

 将閣下にまで登り詰めはっ

 た根っからの武人だと知り

 ながら。

 お止めすることができませ

 んでした。

 ご主人は、日本陸軍を代表

 する立派な軍人さんです。

 日本国への忠誠心は、僕

 達も見習わなければなりま

 せん。』

とは言うものの、公務員ではない医師には関係ない。

厳密に考えれば、日赤病院は恩賜財団なのだから、財団トップは皇后陛下であるということから、準公務員ではあるはずだが。

そんなこんなを話している間に、楢岡堅太郎氏の治療が終わった。

『もう大丈夫だ。

 一命はとりとめました。

 血圧も心拍数もSpO2も

 正常に戻ってます。

 後は、目が覚めてくれはっ

 たら。』

と、治療担当の医師が胸を張った。

楢岡堅太郎氏は、重症でもある上に、自殺の危険性があるため、ICUに収容された。

24時間、看護師や医師の監視下におかれる。

木田の連絡で、本間が制服警官を送ってくれた。

楢岡堅太郎氏警備体制が発動したわけだ。

第二日赤病院の出入口という出入口全てに警察官が付き、さらには、エレベーターホールや階段ルーム、ナースステーション前等、物々しい警戒がなされた。

『ふぅ~・・・

 なんとかかんとか、生きて

 くれたか。』

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