第14話 勘太郎の誤算
勘太郎の現状報告に、捜査本部はざわめいた。
完璧な証拠写真と指紋。
もはや、逃げ道はないものと考えた勘太郎は、ゆったり座った。
しかし、芦田刑事がいきなり立ち上がり。
『勘太郎・・・
たしか、楢岡ってお前が刑
事なの知ってるよな。
それに、星本沙織が釈放さ
れたのも知ってるよな。
あかん・・・
星本沙織が危ない。
月黄泉遥香もや・・・
楢岡みたいなタイプの犯罪
者は、たいてい。逮捕され
た後に、自分に不利な証言
できる奴を生かしとかへん
可能性が大きい。』
だからといって、逮捕状がまだなのにと勘太郎は思った。
もちろん、危険を予想していたとしたら、星本と月黄泉の身柄を保護して安全をはかれたのかもしれない。
木田が無線機のスイッチを入れていた。
『楢岡監視班、聞こえるか・・』
『ハイ・・・
先ほど、アパートから悲鳴
がありまして、楢岡の部屋
に踏み込もうと準備して
ます。』
『よっしゃ、楢岡を緊急確保
してくれ・・・。
もしくは、月黄泉遥香の身
柄保護や。』
そんなこんなの間に、逮捕状が発行された。
その逮捕状を持って、木田と勘太郎が、東山安井に急いだと同時に、芦田が数人の刑事を引き連れて、星本沙織の身柄の安全を図るために動いた。
芦田の班は、無事に星本沙織を保護できた。
楢岡は、監視班に張り付かれて動けなかった。
父親の楢岡堅太郎を動かすことも考えられたが。
楢岡堅太郎は、根っからの軍人であるので、そこまで卑怯な作戦に、手を貸すのか疑問ではある。
『警部補、楢岡逮捕の後で、
楢岡の実家に行かせて下
さい。
息子があんなんでも、父親
は軍人です。
息子の不始末を、自らの命
をもって、陛下にお詫びす
るとかなりませんか。』
いくらなんでも、今の時代にとも思うのだが。
軍人なればこそ、我が子の不始末を恥じる可能性がある。
が、しかし、今は楢岡小太郎と月黄泉遥香の身柄確保が先決。
東山安井の楢岡のアパート前到着して、木田と勘太郎は唖然とした。
救急車が来て、騒然としている。
アパートの狭いドアから救急隊員に運ばれて出てきたのは、なんと、楢岡小太郎である。
『どういうことですか。』
勘太郎は、とりあえず楢岡監視の刑事に聞いた。
『勘太郎・・・
警部補は、いっしょか。
月黄泉遥香に、やられたら
しい。
楢岡は、そう言うてる。』
後ろから、同じく、刑事に腕を捕まれた月黄泉遥香が出てきたが、呆然としている。
『あっ・・・
警部補・・・
これが凶器ですわ。』
べったりと血がついたダンベルを見せた。
『金属製ですわ。
いくら女の子の力でも、後
ろから後頭部を強打された
らさすがに。』
とりあえず、呆然としている月黄泉遥香を、捜査本部に連れて行くことが良さそうという結論。
木田と勘太郎を追い掛けて、楢岡監視班のかたずけに多数の刑事が到着した。
『長崎・坂野・・・
楢岡の救急車追走してくれ。
浜田・山県・・・
月黄泉遥香を捜査本部に
護送。』
木田の指示が現場に飛び、緊張感が復活した。
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