第13話 ほぐされた糸
『隊長・・・
あちらの南京錠、開けるこ
とはできますか。』
勘太郎は、福田にたずねると、すぐに踵を返して。
『坂本さん、とにもかくにも
南京錠の指紋採取お願いし
ます。』
と叫んだ。
詳細を知らない坂本は、首をかしげた。
『勘太郎君・・・
ようわからんが。何をそん
なに慌てるねん。』
呑気に聞き返してきた。
『その南京錠から、楢岡小太
郎の指紋が出ます。
そして、扉の中にある亜酸
化窒素とか、V2Oとか書か
れたボンベからも楢岡の指
紋が。
確認できた時点で、楢岡と
月黄泉の逮捕状を請求しま
すので。』
中にある物まで断定して、しかも、個人の指紋まで特定している勘太郎を羨ましく思った福田は。
『なんでそこまでわかって。』
答えは、木田と勘太郎には至極簡単で。
『あちらの扉を弄ってたのは
、窃盗犯やなくて、証拠品
を隠しに来た犯人です。
その犯人が、楢岡堅太郎の
息子いうたら、察しがつき
ますでしょう。』
福田にも、ある程度わかった。
楢岡小太郎が、何かの事件の犯人で、犯行に日本陸軍の笑気ガスを使った。
そして、その証拠品のボンベを隠しに来た。
『なるほど、731部隊とい
うキーワードからそこま
での。
木田さん、若いけどえぇ
刑事さんですねぇ。
うちの若い者にも、これ
だけの洞察力があれば。
ホンマに羨ましいです。』
自分の部下を他人から誉められて嬉しくない上司はいない。
『こいつは、刑事になるため
に生まれてきたような奴な
んですよ。
京都府警察本部の真鍋新十
郎本部長の孫で、中央官庁
の警察庁のトップである、
真鍋晋作刑事局長の息子
いう、サラブレッド中のサ
ラブレッドですねん。
元々の素質がある上に、京
都府警察本部捜査1課長の
本間警部と捜査1課凶行犯
係係長の私が教えているん
ですよ。』
まさに贅沢三昧の教育体制である。
『エリートコースまっしぐら
ですか。』
『おっしゃる通りです。
京都府警察本部長には確実
になれるでしょう。
上手くすれば、お父上の跡を
つげるかもしれません。』
木田と勘太郎と坂本は、福田に丁寧にお礼を言って、捜査本部に戻った。
楢岡監視班には。
万が一、楢岡が動いた場合は緊急確保の命令が出た。
『木田と勘太郎が、証拠品を
持ち帰った。
今、逮捕状が届くのを待っ
てる。』
だから、緊急確保も辞さない構え。
捜査本部では。意見が紛糾していた。
『実行犯は月黄泉遥香と違い
ますのんか。
楢岡にまで逮捕状て。』
芦田刑事等、繋がりを把握できていない派。
『皆さん、えぇですか。
主犯は、楢岡小太郎・・・
まず楢岡が星本沙織に催眠
術を掛けて、六道珍皇寺念
次郎に、催眠術を掛けさ
せた。
催眠術誘導ですね。
星本沙織に催眠術で誘導さ
れた、六道珍皇寺念次郎は
、五条大橋で刀剣強奪未遂
を繰り返す。
そうこうする間。チャンス
を伺っていた楢岡は、月黄
泉遥香を催眠術誘導して、
念次郎の巾着袋の中の薬ビ
ンにカプセルを入れさ
せた。
カプセルにシアン化合物を
仕込んだのは、楢岡小太郎
ですわ。
つまりは、真犯人は、楢岡
小太郎で、月黄泉遥香と星
本沙織は、捜査撹乱のため
に利用されたぢちゅうこと
ですわ。
最終的に、巾着袋の細工を
月黄泉にさせたのは、念次
郎が、刀剣強奪に行って
る時に、必ず六道珍皇寺に
居てるという月黄泉の嫉妬
心を利用できると踏んだん
でしょう。
星本沙織が、どうやって亜
酸化窒素ガスを手に入れた
のかが、謎でしたが、楢岡
が陸上自衛隊大津駐屯地敷
地内にある第2次大戦中の
大日本帝国陸軍731部隊
の遺構から持ち出した物と
判明しました。
これが、そのボンベの1本
です。
楢岡の指紋がべったりつい
てました。』
テーブルに置かれた古いガスボンベに、捜査員達は注目したが。
『ところで、勘太郎。
なんで楢岡が、そんな日本
陸軍の負の遺産を利用した
ってわかったんや。』
数人の疑問を代表して芦田刑事が質問をした。
『最初、楢岡にはガチガチの
アリバイがあったことは、
皆さん覚えてはりますよね。
ただ、木田警部補と僕の聞
き込みに、楢岡の父親のこ
とが浮かんでしもたんで
すわ。
関東軍防疫研究部隊こと、
大日本帝国陸軍第731部隊
通称旧日本陸軍毒ガス部隊
の総司令官、楢岡堅太郎陸
軍少将閣下の存在が浮かん
でしまったんです。』
勘太郎は、楢岡の父親に敬意を示した。
息子が、殺人事件の主犯であったとしても、三十路を越えた男の責任を、父親に求めるのは、いかがなものかと常々思っている。
更に、ホワイトボードに貼られた数枚の写真を指して。
『この写真は、本日日中に、
楢岡が、ガスボンベを遺構
に隠しに行った証拠写真で
すわ。
陸上自衛隊大津駐屯地の福
田隊長に大変お世話になり
ました。
場所は、大津市の際川、陸
上自衛隊大津駐屯地こと大
津教育師団の実弾射撃訓練
場の中です。
ライフルとか自動小銃、つ
まりマシンガンの訓練場な
んですが。
本日の訓練は、お休みだっ
たんです。
それで、福田隊長のご厚意
で中に入れて頂き、科学捜
査研究所坂本研究員に指紋
を採取してもらって。
証拠を確認できたので、逮
捕状を請求しました。
以上、現状報告です。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます