第11話 屈折した女心

星本沙織によれば、念次郎につきまとっていた女が1人いるという。

『あそこまでやったら、スト

 ーカーですわ。』

かなりひどいつきまといだったようだ。

『女の自分が、見向きもされ

 へんのに。

 いきなりしゃしゃり出てきた

 しかも男の楢岡に横取りさ

 れたって。

 でも、彼女がねじ曲がって

 いたのはここから。

 恨みの先が、楢岡さんやな

 くて、念次郎さんに向いた

 っていうことです。

 自分に振り向いてくれへん

 念次郎さんが悪者になった

 んですね。』

星本沙織の暴露は、にわかには信じられないこともある。

だいたい、念次郎は修行僧である。

女性関係が厳禁なのは、小学生ですら知っている。

念次郎に振り向いてもらえない腹いせとしたら、楢岡に向いた恨みであれば理解も出来たのかもしれない。

だからといって、そんなことで殺したいほど憎むというのはちょっと飛躍し過ぎとも思える。

ただ、調べていく中で、面白い事実がわかってきた。

その女、月黄泉遥香という。今度は、名前からおどろおどろしい。

星本沙織によると、足しげく鉄輪の井戸に通っていたらしい。

『鉄輪の井戸の水を、楢岡さ

 んと念次郎さんに飲ませて

 ました。』

星本沙織の話しの意味が、刑事達には理解できない。

『鉄輪の井戸は、縁切りの井

 戸っていうことで。井戸の

 水を、縁切りしたい相手に

 飲ませたら縁が切れるとい

 う伝説の井戸です。』

星本沙織は、説明してくれるが、楢岡と念次郎は男同士。

しかも。たぶん友情の範囲内。

となれば、そんなことで、友情が切れるとは思えない。

『しかし最近、やたら魔界関連の事件が多いですねぇ。』

勘太郎も、いくらなんでも、魔物や悪魔の仕業とは思っていない。

とはいっても、六道さんと親しまれている六道珍皇寺には、小野篁の冥界からのよみがえりの井戸があったり

閻魔大王が護る、地獄の入口があったり。

加えて、鉄輪の井戸まで出てきた。

前回の姉小路公康さんの猿が辻以来、どうも魔界ポイントでの事件が増えているような気がするんです。たしかに‼️ここ1年の殺人事件現場は、すべて魔界ポイントで起こっている。

いくらなんでも、偶然やろう。

勘太郎は、思い込もうとしている。

勘太郎と木田は、本間の指示で月黄泉遥香に張りついた。

遥香については、いろいろ探っているうちに、かなり奇行がわかり始めた。

捜査本部は、月黄泉遥香に絞って捜査を始めた。

勘太郎だけが、微妙な表情をしている。

何かは、わからないものの、何か引っ掛かる。

数日後、勘太郎は萌の手伝いで店に来ていた。

祇園のナイトクラブ乙女座は、いつも通りの賑わい。

ところが、夜中過ぎに見覚えのある客が、女の子連れでやってきた。

『あれは、楢岡小太郎

 さんやんけ・・・

 萌、あの女の子は。』

『あれは、月黄泉遥香さんと

 おっしゃるんです 。

 それより、楢岡さんのこと

 なんで知ってはります

 の・・・』

勘太郎、ビックリどころの話しではない。

『萌よぉ~・・・

 あの2人って。なんか仲良

 さそうなんやけど。』

『そらそうです。

 お付き合いしたはります。』

勘太郎、当然ながら慌てて木田に報告した。

『また、えらいことになって

 きよったなぁ。

 今から、儂もそっち行くさ

 かい、勝手に動くなよ。』

木田が科捜研の坂本研究員を連れて到着するまでの約15分、

楢岡と月黄泉遥香は、身体を寄せあっていちゃいちゃ。

担当のホステスが困った顔をしている。

それを見て、クスクス笑いながら木田が。

『また、こないだみたいに南

 インターのホテル街に行く

 とか嫌やで。』

『それは、たぶんないと思い

 ます。

 そこの東山安井のアパートで

 同棲してはりますから。』

萌は、かなり知っているようだった。

『月黄泉って。念次郎にストーカーしてたんやないんか。』

勘太郎は、不思議そうに首をかしげた。

その時、楢岡と遥香を担当していたホステスが、2人のグラスを交換するために、下げてきた。

『ナイスや茜ちゃん・・・

 そのグラス、この人に渡し

 てくれるか。』

『えっ・・・

 あのお2人のですか。

 こちらが、楢岡さんので

 こちらが、月黄泉さんの

 です。』

乙女座の従業員は、それが何を意味するのか、よく理解している。

意味がわかっていないのは、坂本だけである。

『いつも、お世話になってる、

 科捜研の坂本研究員や。』

その間に、勘太郎が萌に坂本を紹介していた。

『私、ここの若女将さしても

 ろてます。

 高島萌と申します。

 いつも、主人がお世話にな

 っております。』

『あっ・・・

 勘太郎君の奥さんでしたか。

 いえ、お世話になってるのは

 私達の方で。

 それにしても、勘太郎・・・

 噂に違わん美しい奥さんや

 んけ。』

そう話しながら、パソコンを広げている。

『警部補から言われてたんや。

 指紋ぐらいは検証できるよ

 うにしとけって。』

数秒後には、坂本が木田に報告していた。

『女の方が、念次郎さんの薬

 ビンの指紋と一致しま

 した。』

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