第9話 操り人形

木田と勘太郎の考えでは、星本沙織は念次郎に催眠術で刀剣強奪をやらせただけ、念次郎を操って喜んでいるだけの小悪党との見解。

たぶん、その見解が間違いではなかったのであろう。

星本沙織は、なんとも大胆なところで発見された。

六道珍皇寺の閻魔堂横の木製ベンチで、堂々とコンビニ弁当を食べているところを見つけられた。

しかも、そのベンチは、念次郎がいつも巾着袋を置いていた愛用のベンチだ。

『大胆不敵というか、殺人犯人ではないから、あそこまで余裕なのか。』

『もう無茶苦茶ですね。

 普通、亡くなった知り合い

 に関連する場所で、食事な

 んて、できるもんやないん

 ですけどねぇ。

 確保の時でも、悪びれるこ

 ともなくて。』

勘太郎も、さすがに怒る気にもなれないでいる。

『なぁ、星本さんよぉ・・

 あんた、念次郎さんに催眠

 術かけて、五条大橋で刀剣

 強奪させたやろう。』

『ハイ・・・

 念次郎さん、あんなに見事に

 かかってくれはるんです

 もん。

 かけたこっちがびっくりです

 わ。』

なんとも、簡単に認めてしまった。

『あんたなぁ、強盗教唆って

 いう罪になるんやで。

 考えたことないんか。』

『そんな、たかが催眠術で

 掛けただけですやん。

 そうや、祇園の乙女座って

 いうクラブに電話させて下

 さい。

 若女将の旦那さんが、京都

 府警察の刑事さんやってい

 うから、助けてもらえへん

 か、聞いてみたいんです

 けど。』

萌の旦那という刑事が、命令して釈放されるとでも思っているのか、どや顔で微笑んでいる。

『あんた、うちのお客さんや

 ったんやてなぁ、萌の旦那

 って、悪いけど俺や。

 残念やけど、犯した罪は、

 償わなあかん。

 けど、今回は、そんなこと

 は事件の主要やない。

 念次郎さん、殺したんは

 誰や。』

さすがの星本沙織も、椅子から転げ落ちるほど驚いている。

『な・・・

 念次郎さんって殺されはった

 んですか。

 なんで、どうやって、

 誰が。』

自分が助けてもらおうと考えた相手が、目の前にいる勘太郎であることよりも、念次郎が殺されたということに驚いている。

『念次郎さんは、いつもビタ

 ミンのサプリメント飲んで

 はったんや。

 そのサプリメントのビンに

 青酸カリ入れたカプセルを

 入れやがったんや。

 そんなことする奴、知ら

 んか。

 ついでに言うたら、あんた

 が、念次郎さんを操って、

 五条大橋に行かしてる間に

 巾着袋に入れてあるビンを

 いじくれる奴や。』

勘太郎は、ことさら殺人については沙織ではないと思っているように話した。

『そう言えば、念次郎さん、

 いつも、白いカプセル飲ん

 ではったなぁ。

 ちょっと待って、刑事さん。

 ほな、私が催眠術かけてへ

 んかったら、念次郎さんは

 殺されてへんかったかもし

 れへんいうことですか。』

もちろん、その通りだが、だからといって、催眠術にかかってなければ、殺されてなかったとは言えない。

『ちょっとでも、心当たりあっ

 たら、教えてくれへんか。』

殺人犯人にまでされたくない沙織が、心当たりを洗いざらい暴露するだろうという、勘太郎の読みだが。

星本沙織からは、暴露がされない。

勘太郎は、星本沙織を、念次郎を催眠術で操り。五条大橋において刀剣強奪を教唆した罪により、送検した。

星本沙織は、星本沙織で、必死に考えていた。

自分が、念次郎に催眠術を掛けたことを知っている者で、電話で、催眠状態を思い出させていることも知っていた者。

しかも、星本沙織が念次郎に電話して、あるキーワードを言ったことを知り得る人間は、誰かを思い出そうとしていた。

かといって、思い出したからと言っても、軽々しく他人に話すことなどてきようもない。

下手をすると、殺人の犯人として、落とし入れかねない。

本当に、犯人ならば、憎んでも憎んでもあまりある。

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