第8話 女の情念

上島商事総務部秘書課と記載された名刺を預かり、本間と木田と勘太郎の3人は、捜査本部に戻った。

『今のところ。何の手掛かりも出ぇへんし、とりあえずこの娘に当たってくじけろ。』

くじけるわけにはいかないが、

とりあえず木田と勘太郎は四条烏丸を少し上がった雑居ビルの8階にある上島商事を訪ねた。

京都の地名は、東西の通りを起点に交差点の北側が上がる、南側が下がる、東入る西入るとなる。

さて、上島商事総務部を訪ねた木田と勘太郎だが。

『あっ・・

 星本さんやったら、先月一

 杯で退職されましたよ。』

木田と勘太郎は、星本の自宅に向かった。

上島商事では、個人情報を明かしてはくれるはずもなく。

星本の自宅住所は、日本催眠術師協会京都支部の会員名簿から調べた。

『皆は、知らないみたいです

 けど、彼女は催眠術上級者

 となんら変わらないぐらい

 ですよ。』

楢岡から聞いたことがあると奏介から聞いて、ある確信のような考えが出てきた。

『嫉妬深い女の情念は怖いわよ。』

萌の言葉だが、勘太郎や木田は、まさかそんなものが事件の原因になるとは思っていなかった。

男には、狂人的思い込みで、歩行者天国に車で突っ込んだりする馬鹿がいるが。

ストーカーに走るアホもいる。

木田と勘太郎は、男だけだと思っていた。

しかし、女にもいると考えざるを得なくなってきているらしい。

とりあえず、捜査本部は、星本沙織という女性催眠術師の行方を探して確保する、ということが当面の目標になった。

木田と勘太郎は、念次郎に他の交友関係がないか探している。

『しかし、念次郎さんって

 方は、お友達とか作らへん

 お人ですねぇ。』

六道珍皇寺の奏介と傳介の2人の兄弟子とカラオケ仲間以外の付き合いがないのである。

『修行中の身ですからねぇ。

 私達も大差おまへん。』

奏介と傳介は揃って言うが、携帯電話すら必要な物ではないと思えるほどに少ない。

『親友と呼べるほどの友人

 は、そんなにいるもんや

 ないとは思いますが。

 それでも、三十路前の若

 者が。』

木田の感覚では、三十路前の若者には、もっと遊んで欲しいという、

『いや、しかし、三十路前の

 若者にはお金がありま

 せん。』

勘太郎の答えで、木田の思い込みは粉砕されてしまった。

事実、念次郎の携帯には、楢岡と数人のカラオケ仲間と数件の六道珍皇寺の取引業者の連絡先しか入っていなかった。

それでも、境内での仕事が多かった念次郎には、携帯電話は必需品だったようだ。

その電話機の着信記録を探っていた鑑識課の堤が、捜査本部に駆け込んできた。

『警部・警部補・勘太郎・・

 おもろいもん見つけた。』

堤弘樹鑑識課員、勘太郎とは大学からの同級生で、もちろん警察でも同期生。

当然、俺・お前の間柄。

『お前さぁ、誰に話したいのか

 わからへんやんけ。』

堤は、それが大変な発見に思えていたのだ。

『刀剣強奪未遂の前に、必ず

 星本沙織からの着信がある

 んです。』

『やっぱりなぁ。

 本星かどうかまでは、まだ

 わかりませんが、これで、

 星本沙織が、なんらかの関

 わりがあることだけは確実

 ですねぇ。』

木田と勘太郎も、星本沙織の行方探しに加わった。

堤が発見したことで、もう1つわかったことがある。

念次郎にとっては、星本沙織も友人のつもりだった。

念次郎は、星本ともデュエットしたりしていた。

この時点では、星本が殺人犯人とは、木田も勘太郎も思っていない。

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