第7話 そこに落とし穴
楢岡小太郎は、念次郎とは争いも競争もならなさそうな関係。
催眠術師協会京都支部の会員の中では、たしかに上級者ではあるが。
同じアーティストのファンということで、意気投合して以来のカラオケ仲間。
同じアーティストの曲を肩を組んで歌っていたほどの仲良しだったらしい。
『どこのカラオケ店に行かれ
てたんですか。』
カラオケ店に何か手掛かりらしき情報はないかと思った勘太郎が奏介に尋ねた。
『カラオケ店がどこかは、聞
いてませんが、祇園のクラ
ブやったら同行したことあ
ります。』
祇園のクラブとなると、勘太郎には好都合。
『それ、何て言うクラブですか。』
『乙女座ですよ。
若女将がめちゃくちゃ可愛
くて、お金ができたら通っ
てました。
そうだ、若女将・・・
たしか、萌さんとおっしゃる
んですが、フィアンセがいて
はってですねぇ。
そのフィアンセの方も、刑
事さんて聞きました。』
奏介は、興奮ぎみにまくし立てた。
『奏介さん・・・
申し訳ありません。
それ、俺です。
乙女座の若女将、高島萌の
フィアンセは、俺です。』
『えぇぇぇ・・・
それ楢岡さんが聞いたら、
卒倒しますよ。
とは言うものの、楢岡さん
を、追い掛けてる女の子が
何人かいてはりますし。』
勘太郎。奏介に丁寧にお礼を言って乙女座に向かった。
『あっ・・
若旦さん、お帰りなさい。』
勘太郎の姿を見つけた。ホール主任の神埼が話しかけると、高島萌が、飛び出してきた。
『ダーリン、お帰りなさい。
どないしやはったんどす、
こないお早うに。』
『ただいま・・
ちょっと調べたいことがあ
ってな。
そうや、楢岡小太郎さんっ
てお客さん知ってるか。』
首をかしげる萌とは対照的に神埼が知っていた。
『あの、いつもお坊さんと2
人で、マイク持ったら離さ
へんお客さんですね。』
乙女座としては、大して良いお客さんとも言えないようだ。
『神埼君・・・
そのお坊さんって、この人か。』
念次郎の写真を見て、神埼が、お坊さん、何かあったんですか。
勘太郎が写真を持っているということで、被害者なのか犯人なのか、いずれにしても事件関係者と思ったようだ。
『六道珍皇寺の修行僧で、念
次郎さんって言うんやけどな
先週火曜日に、殺されは
った。』
『そんな・・・
お坊様がなんで。』
萌は、そこで絶句した。
『それが、わからへんねん。
念次郎さん、死んで得する
奴おらへん。
殺されなあかんほど恨まれ
るお人やない。
殺される理由がまったくな
いさかい、手掛かりがない。
んで、いろいろ当たってたら
うちのお客さんってわかって
ちょっとでも引っ掛かりない
かと思ってな。』
勘太郎の報告を聞いて、当然のように、木田と本間が現れた。
『若旦さん・・・
奥のお座敷に、パソコンと
防犯カメラのDVD、用意
しました。』
さすがに神埼は、すべて心得ている。
『そやかて、若旦さんに手柄
上げてもらいたいですさか
い。』
ホール主任としては、気はしがきくのは、良いことだが、神埼の場合、ちょっと効きすぎ。
しかし、今回は、手っ取り早くて良い。
DVDを見ていく中に、木田に引っ掛かる女性がいたと言う。
勘太郎が、神埼を呼んで、
『この女の人って、わからへんか。』
木田が言うには、常に念次郎を睨み付けていたという。
『星本さんっておっしゃる方
です。
楢岡さんにご執心で、楢岡
さんと肩組んで歌わはるお
坊様に嫉妬してはりま
した。』
念次郎は男である。
もちろん楢岡も男。
楢岡を取り合ったとしても、最後に勝つのは星本女史であろう。
嫉妬する必要など無いのだが。
『いや、どうもお坊様と楢岡
さんが意気投合しはった頃
に、告白して振られはった
らしいんです。
そやさかい、自分が振られた
んは、お坊様のせいやて言
いふらしてはったみたいで
す。』
この神埼という男、客の会話を聞き過ぎである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます