第6話 まさかの日本軍が
芦田刑事の情報により、日本催眠術師協会京都支部の会員に、念次郎と絡みのあった人間が数人いることがわかった。
その中で、催眠術の技が、綿谷の話すレベルに到達している者は5名。
しかし、3人のサラリーマンと教師とラーメン屋店主の5人、おおよそ亜酸化窒素など普段は無縁の仕事である。
暗礁に乗り上げた形だが、少しずつ糸口を手繰るのが捜査の基本である。
サラリーマン3人のうち、関口という男と教師の寺田、ラーメン屋店主の増田の3人は、よく連れ立って山登りに出かけている山仲間でもあるらしい。
木田と勘太郎は、とりあえず亜酸化窒素についての知識ぐらいはありそうな教師の寺田に心当たりを聞いてみようと考えた。
『寺田先生・・・
まさか、小学校の授業で亜
酸化窒素なんて使いません
よね。』
勘太郎は、気付かれないように注意したつもりだ。
『使いませんねぇ・・・
子供には、危険過ぎますで
しょう。』
亜酸化窒素が、何かは知っているようだが。
関口・寺田・増田の3人が、山へ行くという情報をくれた。
くれたのか、口を滑らせたのかは、わからないが、木田が非番を装って同行することにした。
比良山系の最高峰武奈ヶ岳を目指すという。
武奈ヶ岳は、琵琶湖の西側で標高1214メートル。
登山道は整備され、歩き易いが、数年前に登山リフトとロープウェイが閉鎖されたため、短時間登山では難しくなっている。
木田は、高校時代にワンダーフォーゲル部、大学時代に山岳部に所属していたほどの猛者である。
山歩きは、お手のものである。
山好き同士で、話しも合いそうだ。
とりあえず、日曜日の武奈ヶ岳登山に同行させてもらえることになった。
武奈ヶ岳は、滋賀県大津市の小松からの登山道が一般的だが、青ガレと呼ばれるガレ場、つまり崖登りを伴う、初心者の崖登りの練習場になっている。
先頭を歩いていた木田は、もちろん軽々と登って行く。
『木田さん・・・
凄いですねぇ。』
3人は、感心しきりで、いろいろと暴露してくれるようになった。催眠術の上級者5人のうちのサラリーマン3人。
同じくサラリーマンの関口は、目の前にいるので、残りの2人であるが。
楢岡(ならおか)という男の父親が、第二次世界大戦で、防疫研究部の研究員だったという話し。
『防疫研究部・・・
大日本帝国陸軍第731部
隊ですか。
さぞかし、高い位の方なん
でしょうねぇ。』
内心、ほくそ笑みながらも、木田は感心した振りをした。
『少将だそうですよ・・・。』
関口は、自分の親でもないのに自慢そうに言った。
『ひぇ~・・・
少将って、閣下じゃない
ですか・・・。』
木田は、大袈裟にのけ反って驚いた振り。
関東軍防疫研究部といえば、旧大日本帝国陸軍第731部隊である。
つまりは、毒ガス部隊のしかも、少将という大幹部。
毒ガス部隊の大幹部とくれば、専門家の中でも、かなり詳しい上級者。
毒ガスのプロである。
防疫分野に於いても、疫病研究や医術開発などで、麻酔薬の研究は、とことんやらなければならない。
笑気ガスについてもプロ級の知識であることが、容易に想像できる。
ただ、いかに専門家が側にいるからといっても、本人ではない。
ましてや、毒ガスのプロなら、敵を確実に仕留めるために致死量を使うか、笑気ガスのような麻酔ガスなら確実に意識を失う量を使うことしか教えないだろう。
楢岡小太郎という男、念次郎とは、飲み仲間でカラオケ仲間という、何の遺恨にもならなさそうな関係。
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