第5話 催眠術か
六道珍皇寺は、昨今のブームに乗って、目が廻る忙しさに悩まされている。
念次郎の死亡によって、本当に困っている。
元々、事件の前から人手不足に悩まされていた。
念次郎が、夢遊病のような動きを始めたのは、半年ほど前。
刀剣強奪未遂が始まったのと時期が一致している。
どうやら幻覚幻聴の類いであることは、間違いないと思われた。
しかも、誰かが、どこからか故意に幻聴を聞かせて、念次郎を操ったと思わざるを得なかった。
しかし、誰が・どこから・どのように操ったのかは、さっぱり不明。
そんな折、木田と勘太郎はいつものように、祇園のクラブ『乙女座』の奥の角席で、管を巻いていた。
若女将の高島萌が、付きっきり。
店1番の美少女の萌を独占すれば、他の客は嫉妬する。
『あのお2人。刑事さんで・
若い方の方は、若女将の
許婚者さんどす。』
接客の女の子に説明されて、挨拶に来る強者もいる。
『なんか、先程、本人に気付
かれずに催眠術かけること
について、考えてはりまし
たけど。
簡単ですよ。
ついでに、後で操ることも
そんなに難しくないで
すよ。』
初老の男が近づきながら教えてくれた。
『申し遅れました・・・
日本催眠術師協会京都支部
の綿谷と申します。』
綿谷氏が言うことには、素人や初心者には無理だと言う。
ハンカチやスポンジに亜酸化窒素を染み込ませて、目標者の前で落とすのだと。
ただし。この時、亜酸化窒素の濃度を濃くし過ぎると。目標者が眠ってしまうため催眠術は失敗する。
目標者が眠らない程度の濃度に調整するのは、かなり難しいという。
亜酸化窒素の影響がなくなってからも催眠術で操るためには、特別な術が必要となるため、やはり素人や初心者では不可能。
『綿谷さん・・・
亜酸化窒素いうたら。笑気
ガスですよね。
全身麻酔に使うガス麻酔薬。
麻酔科のお医者さんにはで
きますか。』
木田が綿谷に質問した。
『答えは、ノーですよ。
とにもかくにも眠らせてし
まうのがお医者さんです。』
微妙な濃度調整などまずやらないというより必要がない。
また、そんな無駄なことは教えられていない。
また、素人に笑気ガスが、手に入れられるとも思えない、
また、覚醒した後に催眠状態に戻して操るのは、脳を直接催眠術にかける必要があるため、かなり高度な技になるという。
『なるほど、それで操られた
念次郎さんは、弁慶になって
五条大橋で刀剣強奪犯に。』
木田は感心しきりに、何度も頷いた。
『綿谷さん・・・
いろいろ情報。ありがとう
ございます。』
勘太郎は、綿谷にお礼を言うと。
『警部補・・・
この件、早う捜査1課長に
報告せんと・・・。』
と言いながら。本間に電話した。
五条大橋刀剣強奪未遂殺人事件捜査本部に、数人の刑事が集まっていた。
『こんな夜中に、みんなご
苦労さん。
木田と勘太郎から、報告が
ある。』
勘太郎が、前に出て綿谷の話しを報告して、最後に一言付け加えた。
『この報告は・・・
刀剣強奪未遂は、催眠術で
操ることができるということ
がわかったというだけのこと
です。
念次郎さん殺人事件の手掛
かりになるかと言うと、正直
疑問で・・・。』
捜査員の芦田刑事が、耳寄りな情報を持っていた。
『いや・・・
勘太郎、俺が調べた中に、
何人か、日本催眠術師協会
京都支部の会員がいてる。
この数人の中に、念次郎さ
んとの接点がある人物は、
わからへん。
これから、調べ
わ・・・。』
『芦田先輩・・・
ありがとうございます。』
勘太郎は、芦田の注意深さと。記録範囲の広さに感心した。
『ようやった、芦田・・・
ほな、夜が明けたら、みん
な芦田に協力して、1人づ
つ当たってくれるか・・・。』
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