第2話 なんでやねん・・・

被害者の身元と死因確定のためには、遺体の搬送が必要になる。

しかし、通常車両で搬送は出来ない。

搬送の係数名が、ガスマスクを着用したままで、府警察本部まで移動しなければならない。

皆が困惑する中、府警察本部の備品配送車両が到着した。

『どなたですか・・・

 こんな珍しいもん・・・。』

配送係2人で、重そうにプラスチック製の大きな箱を運んできた。

『おおきに・・・

 僕ですわ、すんません、

 この遺体の横に置いてもら

 えますか。』

配送係2人が、被害者の横に箱を置いて、勘太郎のサインをもらっている。

『密閉式のお棺ですわ。

 どなたか、被害者を入れて

 下さい。』

勘太郎の機転に、木田は驚いた。

有毒ガスを纏うような遺体を搬送するために、そういう物が出来たことは、全員が聞いているはずだが、見るのは初めてだった。

備品係の2人ですら。

『倉庫の奥に置いてから、

 触ったこともありません。』

という珍品。

『まったくお前。

 変なもんは、覚えとる

 なぁ。』

木田は感心しているのだが、勘太郎、誉められた気がしない。

とにもかくにも、遺体は府警察本部近くの日本赤十字京都第2病院に運んで、遺体洗浄を行った後、科学捜査研究所で。毒物の特定を行った。

『坂本さん・・・

 お願いしてたやつ、ありま

 したか。』

勘太郎、坂本研究員に、何かを頼んでいた。

『さすが、勘太郎君・・・

 あったで、しっかり残って

 たわ。

 高分子化合物・・・。

 こんなもんに目をつけるや

 なんて、あんたホンマに

 刑事さんか・・・。』

『高分子化合物って、何や。』

木田どころか本間ですら聞いたことがない。

『徐放製剤の材料です。

 胃の中で、ゆっくり溶けて薬の効きはじめを遅らせるって、

あの徐放性カプセルの材料。』

『なるほど、で、何がわかる。』

本間は、もうちんぷんかんぷんになっている。

『高分子化合物の残量から考

 えて、カプセルの服用から、

 12時間は経ってから効い

 てます。

 つまり、死亡時間の12時

 間前に、盛られたってこと

 ですわ。』

坂本の説明で、ようやく全員が納得した。

『被害者は、坊さんの姿、

 あの辺の寺で、知り合い

 おらんか、聞き込みしま

 すか。』

木田が立ち上がって、ついに迷コンビが復活した。

いつものように、日産GTRの覆面パトカーが暖機を始めた。

『勘太郎・・・

 そろそろ来るど・・・。』

木田の指摘は、当たっている。

この2人の出動を、黙って見逃せない上司がいる。

京都府警察本部捜査1課本間課長、

京都の凶悪犯人を捜査するトップである。

しかし、尻が軽いというか、身が軽いというか。

『あの辺には、美味いもん

 あるんですか。』

勘太郎には、心当たりはない。

松原通りの鴨川から東や五条通りの河原町から東に、有名な食事ができるお店。

もしくは、付近で思い出そうとするが、3人には思い当たらない。

思い当たるはずはない。

だいたい、ほとんど行かない地域だ。

捜査の合間に少しの時間でという条件が邪魔をする。

被害者は、たしかに僧侶の姿だったが、はたして、それだけを手掛かりに付近の寺を回ってみて、身元確認につながるのか。

しかし、今のところ、他に手掛かりがない。

3人手分けして、寺を周り初めて、あまりの寺の多さに呆れていた。

『すみません・・

 この写真の男性。ご存知

 ありませんか。』

この繰り返しに、辟易しかけていた。

『あっ・・・

 念次郎・・・

 私の同僚で弟弟子に当たり

 ます。

 どこにいてるんですか。

 探してたんです。

 ご迷惑。おかけしてませ

 んか。』

逆に、矢継ぎ早に、聞いてきた。

『五条大橋の西詰の牛若丸と

 弁慶の像の下で。死んでは

 りました。

 身元確認に警察に同行して

 いただきたいんですが。』

『エっ・・・

 えらいこっちや。兄弟子も

 呼んでえぇですか。』

傳介と名乗るそのお坊さんは、慌てて兄弟子を呼びに行った。

その間に、木田と本間に報告を入れた。

『六道珍皇寺の修行僧やそう

 です。

 兄弟子の方に、身元確認の

 同行をお願いしてます。』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る