理不尽な裁き

 松明が今日も店内を橙色に染めている。朝であろうが夜であろうがこの店は常に橙色。僕は松明をボーッと見つめていた。そんな僕に店主は声をかける。


「今からいいことが起こるぜ? 見てな。あっちだ」

「え?」


 僕は松明から店主が指差す方へ眼を向ける。どうも二つのパーティが争っているようだ。怒号の中から聞き取れる言葉を組み立てていくと、片方のパーティーが魔物を仕留めようとしたときに、もう片方のパーティーが魔物を横取りし、戦利品を奪ったらしい。

 双方のパーティーの戦士が、剣の柄に手をかけ、双方の魔法使いが、後ろで詠唱を始める。片方の僧侶と盗賊は、小さく話し合いをしている。どう動くかを決めているのだろう。もう片方の僧侶と盗賊は、僧侶はメイスを構え、盗賊はナイフを構えている。

 僕は眼を輝かせ、店主に酒を頼む。店主も眼を輝かせながら、酒を入れ、僕にそっと渡す。酒を口に含みながら見ていると、双方のパーティの真ん中に突如人が現れた。幻覚? と思い眼をこするが、長い髪を頭の上で束ねた、色の白い青年が立っている。サムライを思わせる甲冑や手甲や具足、兜を身につけている。


『お前のことを待ってたんだッ!!!!』


 店内の常連と思しき客と店主が叫ぶ。僕は突然の大声に驚きながら、青年から視線を外さずじっと見ている。


「五月蝿い」


 小さなでもなぜかよく通る、凛とした声で呟き、青年は刀の柄に手を当てた。と同時に左右に立っていたパーティーが切り刻まれ血祭りに上げられていく。


「なぁ、あいつは気分屋なんだよ。名前は知らない。ただ、機嫌が悪いときに揉めていると全員血祭りに上げていくんだ。面白いだろぉ!」


 店主の説明を聞き、僕はなんとも言えない爽快感が身体を走り抜けるのを感じた。僕はこの異様な空間に毒されているのかもしれない。血を見るのが、人がやられていくのを見るのが、何よりの楽しみになっている。と。

 青年は現れたときと同様。突如姿を消した。僕はまた松明に眼を移した。松明に「楽しめているかい?」と問いかけられた気がした。僕は松明と店主両方に答えた。


「ここはいい店ですね」


 と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ダンジョン帰りの騒音と歪み 中川葉子 @tyusensiva

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る