盗賊の宝

「さぁて、運試ししたいやつはいねえかー?」


 僕が声の方に目をやると、身軽な装備の軽薄な声と表情を持った青年が、木の箱を抱きかかえ酒場に入ってくるのが見える。今日も酒場は橙色にうっすらと輝いている。

 おそらく職業は盗賊だろうと僕は考える。そして大事そうに抱える木の箱に首を傾げる。あれは? と小さく呟くと店主は僕に言う。


「あいつはゲームを連れてくる。まぁ見てな」


 と店主は、狂気を感じる笑みを浮かべる。

 盗賊は新人冒険者たちであろう、パーティに近寄り、肩を置き、たのしげに笑う。


「なぁ、にいちゃんたち。とりあえず、運試ししないか?」

「えーと。運試しというのは?」


 興味を持ったであろう返事に盗賊は笑顔を浮かべ口を開く。


「俺は今宝箱を持っている。そして鍵は二つある。正解を当てるといい装備一式パーティが買えるほどの金が入っている。ただ、失敗すると軽い罠を喰らう。っていうちょっとしたゲームだよ。さぁ、やるか?」


 新人冒険者たちは、金が余程ないのだろう。目を輝かせた。そして酒場中に響き渡る声で叫ぶ。


「やります!!」

「おうけい。さて、まずだ、俺はこの宝箱をお前らの前に置く。そして開く鍵と開かない鍵の二つ。あと条件がある。お前らは4人組だな? 解錠の時に全員が宝箱に顔を近づけること。それだけだ」


 盗賊は新人冒険者たちに後を委ねるように頭の後ろで手を組み、小さく笑う。その様子に気づきもせず、新人冒険者たちは鍵を選んでいる。先ほどまで受け答えしていた、パーティリーダーであろう戦士が、左の鍵を選び、そっと箱の前の穴に差し込む。心臓の音が聞こえそうなほどに、緊張している戦士は静かに鍵を回した。そして、爆ぜた。


「あーあ、残念だったなぁ……。これって正解の鍵出してたっけ。ごめんな出し忘れていた。俺のポケットに入ってたよ」


 顔だけを失いいまだ座っている4人の肩にそっと手を置き、狂ったような笑い声を上げ、盗賊はかえっていった。

 店内のあらゆるところから、血にゲームに対する賛美の声が上がる。店主は狂った愛で僕の目を見据える。


「な? 良いゲームだろ?」


 店主の目に表情に僕は恐怖を覚えた。

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