ダンジョン帰りの騒音と歪み

中川葉子

神と裁きと下卑た笑い

 松明に照らされ、橙色に薄く照らされる店内を眺めながら僕は静かにカウンターの端の席に座り、壁にもたれる。今日もダンジョン帰りの冒険者たちが騒いでいる。

 ダンジョンに住まう怪物達の返り血を放置し続け、艶やかに深緑に染まる甲冑を着た斧を背負い、酒を浴びる戦士。黒いローブを羽織り、とんがり帽子を被り血走った目で魔導書を読む魔導師。盗賊道具を整備しながら静かに酒を嗜む盗賊。オドオドした雰囲気を醸しだしながら、手練れにはわかる殺気を放つ遊び人。4人で今日の戦果をたのしげに言い合いながら酒を料理を喰らうパーティ。

 いつもの風景。いつもの声。僕はここで周りを見渡しながら静かに酒を飲むのが好きだ。

 静かに眺めていると、ダンジョン帰りとは思えないほど、綺麗な身だしなみをしている僧侶が店内に入ってきた。艶やかな長い金髪。ガラス玉のように輝く瞳。表情のない口。白銀に輝く血一つない磨かれた胸当て、その下には青く光るローブ。おそらく魔法がかかっているのだろう。そして背中に背負われた、漆黒のメイスと木でできた杖。

 僧侶は戦果を楽しげに語り合うパーティの横の席に静かに腰を下ろし、店員に「ミルクを」と凛とした声で告げる。そして両手を組み神に祈りを捧げ始める。

 隣に座るパーティが下卑た笑い声をあげる。


「ミルクねぇ? 子供は帰れよなぁ? なにに祈りを捧げているかは知らねえけどなぁ。この世に神はいない。誰を信仰しようが生き残るのは自分の身一つなんだよなぁ?」


 と、僧侶に聴こえるように声を上げ始める。僧侶は静かに立ち上がり、パーティの机の前に立ち、言った。


「神は言いました。あなた方を殺せ……と。私は無駄な殺生をするつもりはありませんが、神の声に従います」


 と。その後何かを小さく詠唱し、下卑た笑顔のまま動けなくなった4人パーティは、あっという間に僧侶のメイスにより絶命する。僧侶は顔色一つ変えず席に戻りまた祈りを始める。

 僕が呆気にとられているとカウンター越しに店主が笑った。


「兄ちゃん、ここはやばいやつの集まりだよ。こういうことは往々に起こる。まだ兄ちゃんは七日目だったかな。もっと色々起こるさ。あんたはそこで周りを見てりゃあいい。きっと楽しめるからよ」


 店主の顔は橙色に輝きながら、目は狂ったように興奮していた。

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