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「秋の……御使い?」

 俺は首をかしげた。

 老人はまたにこにこと笑って頷いた。

「そう。『秋の御使い』とは秋を運んでくる使者のことだよ」

 秋を運んでくる使者……。

 老人は続けた。

「『秋の御使い』は本当は実体がないんだが、毎年この時期になると、仕事をするために私のところに身体を借りに来るんだ。つまり、人形をね」

 老人は手に持っている人形を見つめて言った。

「そして、仕事が終わったら身体を返しに来る。といっても、いつも気がついたら玄関の前に人形が座っているだけで、実際には私も御使いにあったことはないがね」

 そこで、俺は気がついた。

 じゃあ……

「じゃあ、俺がさっきまでしゃべってたのって……」

『秋の御使い』……。

 すると、急にドアのベルがまたチリンチリンとかわいらしい音を立てて開いた。

 しかし、外には誰もいなかった。

「風かな……」

 老人は席を立ってドアの方に近づいた。

 周りを見てみたが、やはり誰もいなかった。

 老人はドアを閉めようとして、ふと、足元に気がついた。

「どうしたんですか?」

 老人がドアの前でしゃがみ込んだので、心配になって立ち上がった。

 しかし、老人はすぐさま起き上がり、俺のほうへ戻ってきた。

 手に何か持っている。

 なんだろうと、手の中を覗き込んでみると、そこにはキレイな色の落ち葉やドングリが入っていた。

「『秋の御使い』から君へのお礼かな」

 その時、またドアベルが鳴った。

 俺にはそれが、「ありがとう」と言っているように聞こえた――。

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人形の届け物 朝日奈 @asahina86

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