七.「償」

 主人の話が終わっても、東子はすぐには何も言うことが出来なかった。ようやく口を開くことが出来るようになっても、まだ話のすべてを信じることは出来なかった。

「それじゃあ、本当に事故だったってこと? でも、だったら、清志朗お兄さんは……」

「彼が殺したのは事実だ。彼が友人を押して、その結果、友人が転落したのだからね。感情を変えてはいけないと最初に言っただろう。彼が罪人であることに変わりはないと。私の言った感情とは、喜怒哀楽などの気持ちではなく、相手に対する価値付けのことだ。確かにもとの原因は窓が外れたことだろうが、彼にはその友人を掴んで転落を防ぐことも出来たはずだ。それなのに、彼はそれをしなかった。ただ友人が落ちていくのを見ていただけだった」

「そんなの、急だったからとっさに動けなかっただけかもしれないじゃない!」

 しかし、主人は頭を振ってきっぱりと言った。

「しかし、その直前、彼は友人に対して怒りをあらわにしていた。とっさに動けなかったのか、意図的に動かなかったのか、それは彼本人にしか分からない。それに、仮にその件が事故だったとしよう。しかし、それ以前に、彼はすでに盗作という罪を犯しているのだよ」

 盗作と聞いて、東子は反論できなかった。というよりはまだ半分くらい信じられなかった。あの清志朗が盗作だなんて……。ではやはり、清志朗も他の罪人たちと同じように……。

「それでも彼を救うのだろう?」

 東子は主人の言葉にはっとした。そうだ。自分が清志朗を救うのだ。自分自身でそう決めたではないか。東子は覚悟を決めたようにきゅっと口を結んだ。

 とは言ったものの、具体的にどんなことをすればよいのか、今更になって疑問に思った。主人は、罪を償わない限りここから離れることは出来ないと言っていたが、罪を償うためには何をすればよいのだろう。普通なら刑務所に入るのだろうが、まずここから出られないことには意味がない。東子は目の前の主人を見た。この人なら何か知っているだろうか。

 その視線に気づいたのか、主人がおもむろに口を開いた。

「罪を償うとはどういうことか分かるかい、お嬢さん」

「え、えっと……間違いを認めて、お詫びすること?」

「確かに、それも罪を償うといえるだろう。しかし私は、罪を償うとは、自分と他人の双方が共にその罪を許すことだと考えている。君の言うお詫びというのは、罪を許すための証明のようなものではないかな。だから、一方が罪を許したとしても、もう片方が許さなければ、それは本当に罪を償ったことにはならない。その許さない者が、他人だろうと自分だろうとね。罪を犯した当人は双方から罪を許されない限り一生その罪を背負うことになる。彼の場合、他人とは彼の友人になるが、その友人はすでに亡くなっていて、許すどころか、話すことすら出来ない。だからこの場合、君がその他人にあたるのだ。ここにいる彼以外の人間は君しかいないからね。しかし、たとえ君が彼を許したとしても、彼自身が自分の罪を許さなければ、彼はここを出ることはできないだろう。つまり、君は彼に自分を許すよう説得しなければならない。分かるね」

 東子は主人の言ったことを頭の中で反芻しながら、しっかりと頷いた。主人は更に続けた。

「罪人はその罪を償ったとき、魂の色はグレーからブルーに変わるだろう。彼の魂の色が不安定なのは、きっと彼自身が自分の罪を許したいのに許せないからではないかと思うのだ。だから、君が彼の背中を押してあげなさい」

 私が、背中を押してあげる。東子は自分にそんなことが出来るのか少し不安だった。いつも背中を押されていたのは東子のほうだった。だから、自分が逆の立場になるのは初めてだったのだ。

「大丈夫、君ならきっと彼を救える。君は本当に純粋な子だからね」東子の心情をまた読んだのか、勇気付けるように主人が言った。「私はあの時、他人の許しを得ることばかりを求め、私自身が己の罪と向き合うことをないがしろにしてしまった。私はそのことを今でも後悔している。だから、どうか私のためにも、君たちは私と同じ過ちを犯さないでくれ」

 主人は頼むと言って、東子に頭を下げた。東子は年上の人に頭を下げられたことにどぎまぎしたが、それでも彼の意思を汲むことはできた。勇気付けられたことで自信も出てきた。後は清志朗と向き合うだけだった。東子は主人と自分に対して強く頷いた。

 東子は今にもハウスに向かいたかったが、一つだけ気になることがあった。

「でも、どうして私にそこまでしてくれるの? 自分の過去を見せたり、この屋敷のことについて教えてくれたり……」

 主人は東子から視線をはずすと、うつろな目でどこか遠くを見ながら言った。

「そうだな、私もあえて、自分のこのような行動に意識したことはなかったが、きっと君たちは私にとっての希望なんだ。今までここに来たものはみな罪を償うどころか、その罪のために自身を破壊していった。私はいつもそれを見ていることしかできなかった。未来ある者達が自分と同じような末路迎えるのを見るのは、まるでそれ自体が拷問であるかのような気分だったよ。私が今まで見てきた罪人たちは何時も一人でここに来た。そして、いつも独りで罪に溺れていった。しかし、今回は違う。今回は今までの罪人と違う魂を持つ彼と、君という、罪人を救うことのできる者が共にやって来た。だから、私は希望をかけてみたくなったんだ。君達にね。それに、彼はどこか私と似ているところがあるんだ。だから、余計、彼には私と同じ路を辿って欲しくないんだよ。君にあの夢を見せたのはあの悲惨さを知り、彼を救う手助けになるかもしれないと思ったからなんだ」

 主人は東子にニッコリと微笑みかけた。それなのに、東子にはそれが泣いているように見えた。この人は今まで、どれだけ多くの罪人を見て、どれだけ多くの苦痛を感じてきたのだろう。それは、今の東子の力でははかり知ることができなかった。そんな彼が自分達を希望と読んだのだ。東子はますます清志朗を救うという決意を強めずにはいられなかった。この哀れな罪人のためにも。

「ありがとう。あなたのお陰で、自信が湧いてきた。私、きっと清志朗お兄さんを救ってみせる!」

 東子はあえて明るく言ってみせた。主人はそれに答えるように、今度はちゃんとまっすぐに微笑んでくれた。しかし、すぐに真面目な顔をするとハウスの方を向いて言った。

「行くなら、急いだ方がいいだろう。彼は自分の言動で君を傷つけたと思い込んでいる。このままでは発狂してしまうかもしれない。あそこには、私が作った麻薬のサンプルもまだ少しあるんだ。今でも効果があるのかは分からないが、もし、彼がそれを見つけていたら、手を出してしまう可能性もある」

 東子は急に胸騒ぎがしてきた。急がないと間に合わないかもしれない。東子は踵を返し、急いでハウスに向かおうとしたが、後ろから主人に声をかけられて、慌てて立ち止まった。

「そうだ、妻のことなんだが……妻が君を襲ったことは、許してやってほしい。彼女はずっとひとりであそこに篭っているから、きっと寂しかったのだろう。妻が礼拝堂から抜け出せないでいるのは、きっと私を救えなかったことを悔いているからなのだろう。私を救えなかったことが、彼女にとっての罪なのだろうね。愛する人をこんなに苦しめてしまったのも、私の罪だ」

 東子は奥方に首を絞められたのを思い出した。確かにあの時はすごく怖かったし、まだ少し首に感触が残っていたが、東子は少しも彼女のことを恨んではいなかった。むしろ泣いてばかりで意気地がなかった東子に活を入れてくれたみたいで、感謝すらしていた。それに、東子はちゃんと知っていた。主人がどれだけ奥方を愛していたのか、彼女がどれだけ主人のことを思っていたのかを。すべて自分の目で見てきたから。

「あなたは、あなたが思ってるよりもずっと純粋な人だと思うよ」

 東子はそう言って主人に笑いかけると、今度は止まることなく、ハウスに向かって駆け出した。


 主人は東子が出て行ったほうをじっと見つめていた。

 私が、純粋……? こんなにも罪を重ね、穢れてしまっているのに?

 彼は生まれたときから、自分が綺麗だと思ったことはなかった。自分と血の繋がった父親の所業を目のあたりにしながら育ったのだ。綺麗だと思えるはずがない。父が捕まってからは、その思いがもっと強くなっていった。いつも汚れ物のように、目立たないよう隠れて暮らしてきた。自分はこの世から消えてしまえばいいと思ったこともあった。それなのに、あの少女は自分のことを純粋だと言ったのだ。

 そういえば、前にも、自分のことをそう言ってくれたものがいたような気がする。彼はそれが誰だったか思い出そうと試みた。

「花をいじってるときのあなたって、とっても綺麗ね。すごく楽しそうで、純粋な子どもみたい」

 そうだ、あれは……

 最愛の人物を思い浮かべたとき、彼は目から涙が溢れそうになった。しかし、この存在となった今では、涙を流すことも出来ない。

 彼は永遠に濡れることのない目を手で覆いながら、初めて自分の死を後悔した。

 東子は暗い廊下をハウスに向かって急いだ。走っているせいで懐中電灯が揺れるので、視界が悪く、何度か躓きそうになったが、それでも東子は清志朗のことだけを想った。

 ――このままでは発狂してしまうかもしれない。

 頭の中で主人の言った言葉が反響した。それを思い出すたびに、東子は焦りを感じた。

「急がないと……」

 もう何度も通っている廊下なのに、やけに長く感じた。

 ようやくハウスに着いたとき、東子は目を見張った。

 ハウス内は相変わらず鬱蒼としていて青臭かったが、そこには自然独特の整然さがなかった。木の枝は乱雑に刈り取られ、土は何ヶ所も掘り起こされていて、花壇からはみ出していた。その土と一緒に、刈り取られた葉や花が痛々しく地面に散らばっていた。

 多くの植物が刈り取られていたため、前に来たときよりも視界は開けていたので、東子は目的の人物をすぐに見つけることができた。

 ビニールハウスの中央に、清志朗はいた。鉈を握り締め、肩で息をしながら立ち尽くしていた。俯いていたので、表情を読み取るのが難しかった。

 背中にじわりと嫌な汗が広がった。まさか、もう……。東子は初めて見るはずのその光景にデジャヴを覚えた。そのデジャヴが、余計東子を不安にさせた。

「せ、清志朗、お兄さん……?」

 東子が読んでも、目の前の従兄は反応を示さなかった。

「清志朗お兄さん」

 東子はもう一度名前を読んでみた。すると、ようやく気づいたのか、わずかに顔を上げた。清志朗は泣いていた。ライトを近づけると、濡れた頬が光った。東子は清志朗が泣いているところを初めてみた。東子はそれを見て驚いたが、同時に少しだけショックも覚えた。

「東子……ちゃん?」

 清志朗は少し眩しそうに目を細めた。東子は慌ててライトを下に向けた。清志朗は隠すように涙を拭うと、東子に向き直った。

「ここには来るなと言っただろう。なのに、どうしてまた戻ってきたんだ?」

 清志朗は鉈を強く握った。怒気を含むその声に、東子は一瞬ひるんだが、今度は逃げ出さなかった。

「私、清志朗お兄さんを救いに来たの」

 清志朗は言葉の意味が分からなかったかのように、一瞬目を丸くした。しかし、すぐにもとの警戒するような表情に戻った。

「君が? 俺を救う? 冗談はよしてくれ。何も知らない君が一体何から救ってくれるっていうんだ? 死人でも生き返らせてくれるっていうのか?」

 そう言う清志朗は東子を嘲笑っているようにも見えた。泣きながら笑う姿は明らかに異様だった。東子はその姿に震え上がった。本当に自分はこの人を救えるのだろうか……。

「わ、私、何も知らないわけじゃないよ。その、事故のこと、この家の主人が教えてくれたから」

「家の主人って……。本気で言っているのか? その人はもうだいぶ前に死んでいるんだよ」

「う、うん、だから、その幽霊に……」

 東子は段々自信がなくなってきた。東子自身が幽霊に出会って、さらにそれと話までしたことが現実だということには確信を持っていたが、それを他人が信じてくれるかまでは考えていなかった。

 清志朗は東子の様子を疑うような目つきで見ていた。

「そういえば、前にも幽霊を見たとか言っていたけど、本当なのか?」

 確かに、清志朗はこの屋敷に入って以来、時々自分達以外に何かの気配を感じることがあった。その時は大して気にしなかったが、東子の言っていることが本当なら、あれもおそらくそうだったのだろう。もとより、この屋敷には不可思議なことが多い。それはずっと気になってはいた。浴室の文字、あのときの時刻を指す柱時計と時計草。最初は何らかの理由で事件の真実を知った誰かが、俺に対して行ったものだと思っていた。しかし、柱時計だけならともかく、時計草の針を、それもあれだけ大量に合わせることなど不可能だ。それに、使われた気配もない浴室の鏡だけが曇っていたということも。しかし、

「だったら、その屋敷の主人はどうして事件のことを知っていたんだ? それとも、幽霊はなんでも知っているのか?」

「信じてくれるの?」

 東子はパッと顔を上げ、目を輝かせた。

「仮にいたとしたらの話だ。で?」

「あ、うん。その人は、清志朗お兄さんが独り言をしてるのを聞いたって……」

 清志朗は顔が熱くなった。あれを聞かれていたなんて……。ハウスに篭り始めたとき、清志朗はかなり錯乱していて、自分で自分が何を言っているのかもよく分からなかったくらいだが、そこに他に人がいないことだけは分かっていた。だから、今の東子の発言そのものがこの屋敷に何かがいるという証明になった。

 清志朗が独り言を聞かれたことに動揺したのに気づいたのか、東子は慌てて付け足した。

「あ、でも、私は、事故のことをかい摘んで聞いただけだから。それで、その人が言うには、この屋敷は呪われてて、それは、つ、罪人にしか効かないらしくて、だから、出ることが出来ないみたい」

 呪い。清志朗は心の中で納得した。呪いなんて現実的ではないが、その言葉だけで、これまでの不可解な現象がすべて解決できた。しかも、罪人にのみ効くなんて……。清志朗には、この屋敷がまるで自分のために造られたように感じられた。

 清志朗はハウス内を仰いだ。その時、ふと、疑問が浮かんだ。

「呪いは罪人にだけ効くと言ったね。とういうことは、君だけならここから出られるはずだ。どうして出ていかないんだ? こんなところにいたってろくな目には合わない。だから、早くここから……」

「やだ!」東子は清志朗の大きな身体に飛びつき、清志朗の言葉を遮った。「一人でここから出るなんて絶対に嫌! 清志朗お兄さんと一緒じゃないと絶対に出ないから!」

 東子は清志朗の胸に顔をうずめた。どうして、みんな自分の一番嫌いな質問をするのだろう。東子の目じりに涙が浮かんできた。

 清志朗はそんな東子に、子どもを宥めるように言った。

「でも、俺はここから出られないんだ。罪人はここから出られないと言ったのは、東子ちゃんだろう」

「出る方法ならある! あの人が言ってたの。罪人は罪を償わない限りここから出ることが出来ないって。それってつまり、罪を償えばここから出られるってことでしょう。だから、清志朗お兄さんも罪を償えばきっと出られるよ」

「罪を償うって、どうしろっていうんだ? 警察に行くにはここを出なければいけないんだよ? ここから出ずに償うなんて不可能だ」

 清志朗は呆れたようにそう言うと、東子の肩を掴んで自分から引き離した。しかし、東子はひるまなかった。

「そんなことない! ここを出なくても罪を償うことが出来るんだよ。あの人が教えてくれたの。罪を償うことは自分と他人の両方がその罪を許しあう事だって。だから、清志朗お兄さんが自分のことを許してあげれば、それが償いになるの。清志朗お兄さん、本当は自分のせいで友達を死なせちゃったこと後悔してるんでしょう? ずっとそのこと溜め込んでて、つらい思いしてきたんでしょう? だったら、もう……」

「でも……俺は、人を殺したんだ。そんなの、許せるわけが……」

 清志朗はためらった。そんなこと、許せるわけがないのだ。自分が許しても、世間が許してくれない。何より、清志朗自身が許せなかった。自分は許されてはいけない人間なのだと、そう思ってきた。

 ためらう清志朗を見ていて、東子はあることを思い出した。それは、もしかしたら清志朗の考えを変えることが出来るかもしれないことだった。これは、東子にとっては賭けだった。

「清志朗お兄さん、あの時、ホントはどう思ってたの?」

「あのとき?」

「その、友達が落ちる瞬間」

 清志朗は、東子がなぜ今そんなことを聞いてくるのか分からなかったが、頭の中ではすでに、その時の様子が映し出されていた。しかし、東子の言う肝心の落ちる瞬間の映像はいくら思い出そうとしても出てこなかった。

「思い出せない。あの時は俺も頭に血が上ってたし、それに、ほんの一瞬のことだったから、覚えてないんだ」

「思い出してみて。お願い」

 清志朗は、なぜ、あえてそんないやなことを思い出さなければ、と東子に講義しようとしたが、東子のあまりに懸命な表情に逆らえなかった。

 清志朗は当時のことを思い出そうとした。しかし、頭が思い出すことを拒否しているのか、上手く思い出すことが出来なかった。その場面を思い出そうとすると頭が真っ白になってしまうのだ。

 平石が落ちる前と落ちた直後のことはなんとなく覚えてる。でも、その間は? 俺は、あの時、どうしてた? あの一瞬のとき、何を考えていた?

 清志朗は、頭から抜け落ちた空白の一瞬を思い出そうと試みたが、どうしても思い出せなかった。清志朗は手がかりでも探そうとするように周りに目を泳がせた。その時、無残に刈られた時計草の残骸が視界に入った。それと同時に、頭の中でフラッシュバックが起こった。


 落ちる――。

 俺はとっさに肩を掴む手に力を入れようとした。しかし、その時、頭の中でよく知った声がした。

「盗っちまえば?」

「早い者勝ちなんだから」

 同じ声が、また俺にささやいた。

「見捨てちまえば、助かるかもよ?」

 俺は、気がつくと、手を放していた――。


「ああ……あああ!」

 清志朗は力が抜けたようにその場に座り込んだ。その反動で鉈が清志朗の手から離れた。

「清志朗お兄さん!」

 東子も慌ててその場にしゃがんだ。

「やっぱり、俺が殺したんだ。俺が、わざと、平石の肩を放して……」

 清志朗は両手で顔を覆うと、そう呟いた。

 東子はその言葉に愕然とした。東子は、清志朗が思わぬ事故で驚いたために、とっさに動けず、友人を助けられなかったものだと思っていた。清志朗がその時のことを思い出せば、きっと、仕方がなかったのだ、と自分のことを許してくれるだろうと、そう思っていた。しかし、その考えは浅はかだった。結果的に、清志朗は自分を許すどころかさらに自分を追い詰めることになってしまった。東子の賭けは、失敗した。

「せ、清志朗お兄さ……」

「触るな」

 清志朗は近づいてきた東子にぴしゃりと言った。東子は今までにない鋭い言い方にビクリと肩を震わせ、後ずさりした。俯いていて、表情はよく分からないが、おそらく、自分が殺したという確信を得たことに対する絶望と、そのきっかけを作った東子に対する怒りを感じているのだろう。東子は、自分が何をすればいいのかも分からなくなってしまった。

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