手紙の中身
アイの両親は馬車に乗り込み、アイの居るザッツバード領へと向かう所でアイの弟レヴィは妻であるサビーヌも見送りに来ていた。
「ちょっと待ってくださーい」
息を切らせてやって来たゼファーはレヴィとアイの両親に一礼したあと、手に持っていた手紙をアイの両親に託した。
「これは?」
「申し訳ありませんが、お嬢様にお渡し願いませんでしょうか? 中身は他愛もない事ですが、是非」
「これくらいなら構わないわよ。ね、あなた?」
「ああ。なんなら帰りの時に返事も受け取っておこう」
「ありがとうございます」
ゼファーは深々とお辞儀をすると、レヴィ達と共にアイの両親を見送った。
「ゼファリー? あの手紙の中身は?」
「先ほども言いましたが他愛のないことです。妻であるラムレッダからの手紙ですよ」
笑顔を見せ去っていくゼファーに、レヴィは違和感を覚える。
(姉さんに手紙? もしかしてあれだけ元気なのは、姉さんに密告するつもりか!?)
「ねぇ~、あなたぁ。あの手紙、取り返した方がよくなくて?」
サビーヌはレヴィと腕を組み甘えるように見つめる。
「そうだな……。いや、やっぱり止めておこう」
(きっと姉さんも賛同してくれるはず。立派にやっていると受け取ってくれるはずだ)
レヴィが書斎へと戻っていくと、サビーヌも後ろに寄り添いついていく。サビーヌの口角がつり上がるのをレヴィは見ていなかった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
「リーン、リーン! 聞いて! お父様達は今ラヴイッツ公爵領に居るみたい。しばらく観光してから、こっちに来るって!」
「そうか、それじゃあ、あと二、三日ってところか。それじゃ、料理の準備などに取りかかるように僕から従業員に伝えておこう」
ラヴイッツ領を出ればザッツバード領まで目と鼻の先で、アイの住むナホホ村までは、ザッツバード領に入り半日とかからない。
アイは浮かれていた。今のリーンとの関係を早く両親に見せたかったのだ。物作り以外で両親を初めて喜ばせることができると。
窓の外から景色を眺めアイは両親が来るのを指折り数え楽しみにしているのであった。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
五日後、アイは両親と対面する。しかし、それはアイの望んだ形ではなかった。
「いやぁああああああああああっ!!」
転生してから初めて出す叫び声が、辺り一面に木霊する。
もう到着してもいいだろうと思っていたが一向に来る気配がなく、心配するアイを気遣いリーンは使いを出した。
その使いが今戻って来たのだが、一緒にやって来たアイの両親は無惨な遺体となっていたのだ。
使いに問い詰めたリーンであったが、ザッツバード領に入ってすぐの所で何者かに襲われた後だったと使いは言う。
しかしアイの耳にそんな話は入って来ず、ただひたすらに両親に泣きつくばかり。
馬車は壊され、馬もおらず、荷物もほとんど奪われていることから賊にでも襲われたのではと、使いは言うが、リーンが主体となってからのザッツバード領は他の領に比べても治安は良い。
以前アイも襲われたが、それは賊の背後にちらほらと企みが見えていた。
「どうして……どうしてこんなことに……」
嗚咽を上げながらアイは惜しみつつもメイド達に連れられて邸宅へと戻らされる。
「賊……か。すぐに捜索させるように! それと、スタンバーグ領にもこの事を伝えよ」
リーンの命であちこちに早馬が放たれる。代行とはいえ領主としての仕事を終わらせるとリーンは直ぐ様アイの元へと駆けつけた。
「アイ!!」
「リーン……リイイイィィン!!」
アイはリーンに抱きつくと膝から崩れ落ちる。少しでも落ち着くようにと、アイのピンク色の髪を掻き撫でながら、眠れぬ夜を過ごした。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
この事件は数日もしないうちに周辺の領内にまで轟く。真っ先に駆けつけたのはブルクファルト辺境伯夫妻。
アイはブルクファルト辺境伯夫人へと泣きついた。夫人も義理の娘になる予定のアイを慰める。
「うう……まだ……まだ、二人に花嫁姿を見せてないのにぃぃ……!」
夫人が泣き崩れるアイを部屋で慰めている間、リーンは父ブルクファルト辺境伯と相対して今後どうするかをリビングで相談していた。
「彼らが息子に伯爵を譲っていたのは不幸中の幸いか」
「いえ、父上。今回は厄介な事になりかねません」
「何!?」
リーンはテーブルの上に地図を広げる。地図にはバツ印が一ヶ所示してあり、そこが今回の事件の現場であった。
ラヴイッツ公爵領を出て、街道に沿って進んだザッツバード領に入った直後の位置を見てブルクファルト辺境伯もリーンの言葉に納得する。
「なるほど。スタンバーグ家が何かしら言って来る可能性が高いな。何せ、進路は公爵領を通っている街道だ。公爵より此処ザッツバード領を実質支配しているリーンに、ひいては儂の所にも、か。ブルクファルト家がザッツバードを支配下に置いている事をよく思っていない奴らもいるからな。そいつらがスタンバーグ家につくとなると、確かに厄介だな」
「取り敢えずは、公爵を味方につけましょう。ラヴイッツ公爵も他人事ではないはず。アイへの襲撃の件もありますから。それと、スタンバーグ家からも遺体の引き取りに来るでしょうから、なるべく穏便に説得してみます」
懸念するリーンと辺境伯であったが、嫌な予感はスタンバーグ家からやって来たレヴィとは別の使者によって伝えられることになった。
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