浴槽
食器を洗うのが妙に億劫なときってないだろうか。私はよくある。洗い始めるとすぐ終わってしまうのだが、なんだろう、手が濡れるのが嫌だという感じ。理由がはっきりしていないけれど、妙に嫌になるときがある。
風呂を洗うのが面倒だと思うこともある。二日目はそのままの湯を炊き起こして入るけれど、三日目には人間の出汁が出てぬるぬるしてしまっているから湯を抜く。湯だけ替えればいいのかと思って試してみたこともあったけれど、ヌルヌルが残っていた。
そもそも浴槽に浸かるのも、ゴシゴシ身体を洗うのが面倒だからだ。風呂に浸かりながらタオルで身体を擦るのが楽で良い。こういうことを人前で言うと不潔だと思われるから言わないほうがいいけど、石鹸で洗うより綺麗になるから本当はおすすめだ。
食事を作るのが面倒だと思うこともある。でもコンビニに行っておにぎり一個百七十円などと抜かされると何も買わないで帰りたくなる。そういう日のために薄力粉を買いだめしてある。これを砂糖と卵と油だけで練って、フライパンにべたーっと広げて焼く。出来損ないのホットケーキみたいなものが出来てそれを食べる。
私はよく考えると、それら生きるための些事に関わらず、面倒だと思うことがよくある。
映画を見に行こうと思っていたけれど、当日になって、映画は面倒だと思う。映画を見ながら、やっぱり来なかったら良かったなと思う。映画を見終えてまず思うのは、義務をひとつ果たしたぞという解放感だったりするから、救いようがない。
面倒だという心の底の要求にさんざん応える日だってもちろんある。そういう日は一日十八時間くらい寝て、残りの時間は寝転びながら音楽を聴いている。ブルックナーという作曲家の音楽は一曲で一時間半近く楽しめる。貯金が残っているときは、その状態で一ヶ月くらす月だってある。
誰か友達に会うとき、その友達と会うのがどれだけ楽しみでも、最初に思うのは、億劫だなという気持ちだ。
ずっと家に居られたらと思うことがよくある。でも、消極的な意味合いではない。それが可能だったらとても幸福だ。私が本当に望むものは、ずっと部屋に居て、それからホットケーキもどきを食べて暮らすことだ。一緒に寝てくれる猫も居たらなおいい。
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