願いを叶える小瓶

朝日奈

願いを叶える小瓶

小瓶を拾った。安っぽそうな手のひらサイズの子瓶だ。コルク栓はしてあるが、中は空だった。

 薄汚れていたので服の袖で拭うと、瓶には複雑な模様がついていることが分かった。

 その柄が気に入ったので、持ち帰ることにした。念のため、周りに人がいないのを確認して、鞄の中に入れた。

 家に帰って鞄を開けると、瓶の中に、さっきはなかったはずの紙が丸めて入っていた。栓を開けて取り出してみた。

 紙にはこう書いてあった。

「願いを叶えます。紙に願い事を書いて瓶に入れ、三度振ってください。 ―― 残り三回」

 悪戯かと思った。でも、拾ったときは、確かに何も入っていなかった。

 魔法のランプの小瓶版? そういえば、拾ったとき、瓶を擦ったような。

 しばらく考えた後、試しに願い事をしてみることにした。叶っても叶わなくても、どちらでもかまわなかった。

 最初に入っていた紙の裏に願い事を書いた。

「新しい靴が欲しい」

 クラブで使っている靴がかなりボロボロで、コーチに買いかえろと言われていたのを思い出したので、それにした。

 紙を丸めて瓶に入れ栓をして、三回振ってみた。中の紙は何も変わっていない。

 その時、後ろの方で物音がした。振り返ってみると、新品の靴が床に転がっていた。靴を見てみた。間違いなく本物だ。

 視線を瓶のほうへ向けた。ごくり、と唾を飲み込む。

 瓶の中の紙を取り出すと、さっきとさほど変わらない文章が書かれていた。違うのは最後に書かれた数字くらいだった。

「願いを叶えます。紙に願い事を書いて瓶に入れ、三度振ってください。 ―― 残り二回」

 信じられない。しかし、実際に願いが叶った。驚きもあったが、それ以上に恐ろしくなった。当然だ。現実では有り得ないことなのだから。

 捨ててしまおうか。だが、なぜだか捨てるのはためらわれた。

 そうだ、いいことを思いついた。

 さっきのように紙を裏返して、ペンを走らせた。

「この『願いを叶える小瓶』について詳しく教えてほしい」

 いい案だと思った。小瓶に入れて三度振った。さっきと同様、何も変わらなかった。

 紙を取り出してみた。二枚になっていた。

「願いを三つ叶える小瓶です」

「願いを叶えます。紙に願い事を書いて瓶に入れ、三度振ってください。 ―― 残り一回」

 腹が立った。そんなことは分かっている。もっと具体的なことが知りたいのだ。

 願いをすべて叶えたらどうなるかとか、どうやって叶えているかとか、そういったことが知りたかったのだ。

 なんだか瓶になめられている気がして、無性に腹が立った。

 紙に書かれた文字をペンでぐしゃぐしゃに塗りつぶして瓶に入れ、ゴミ箱に放り投げた。

 しかし、命中はせず、ゴミ箱の端にぶつかって、床に転げ落ちた。二度跳ねたが割れはしなかった。

 その瞬間、視界が消えた。自分の体も消えた。

 体が消える瞬間、一枚の紙が目に映った。

「願いを叶えます。紙に願い事を書いて瓶に入れ、三度振ってください。 ―― 残り〇回」

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願いを叶える小瓶 朝日奈 @asahina86

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