第16話

 彼女の家に定期的に通うのも、今の所拒否された記憶がない。


 大抵カレンダーの休日関係無く仕事だから夕食を作りに行く程度だがそれも彼女は感謝しか示さないし、迷惑だと言われた試しもない。

 それに甘える形なのは自分でも良く分かっている。それでも彼女が明日は珍しく休みであると教えてくれれば、迷惑でないから教えてくれると半ば強引に口実にして、彼女に会いに行く程度に請うても、彼女は相変わらず自分への好意とは全く受け入れる気がない様だった。


「やっぱり前のチモシーの方が食いつきは良かったですよね。さっちゃんの体重どうでした?」

「ちょっとスリムになったから心配してたけど、激減って程じゃなかったよ」

「肉垂もご立派なままなので下半身が締まったのかもしれませんね。最近機敏になったと思います」

 彼女はいつもの通りにコーヒーテーブルの傍へと腰を下ろして、兎の飼育日記へとペンを入れて居る。


 最近彼女が広げるノートが1冊増えて、この間その表紙にさっちゃん用と書かれてあるのを見つけた。

 実際彼女が何をつけているのかと言えば触診の結果やら、湿度温度による餌の食いつきの変化だとか、体重の増減だとか、餌や牧草のテスターとしての結果だとか。本当に毎日ブラッシングでどれだけ毛が抜けただとかまで書いてあって感心する。

 彼女の仕事量を考えれば本当に信じられない量だったので、彼女の家に遊びに来たときぐらいはせめて何か手伝わせてと一條が申し出てみても、サチを体重計に乗せるのと軽い掃除などを頼まれる程度だ。


「定期検診どうでした?」

「問題無かったよ、君の紹介してくれた病院に行ってみたけど、君の所に遊びに行くなら餌は戻しても太らないだろうって言われた位だから」

「茶々の出産前後の運動不足もおかげで解消されましたし、さっちゃんにはちょっとハードかもしれないですね。誤飲の影響も流石に残っていないでしょう、もう今のチモシーは辞めておきましょうか」

 胃腸に残りにくくダイエットにも効果的だと彼女に紹介されたその牧草も随分量が少なくなる程には、彼女との付き合いも長くなったと思う。


 あの時誤飲にも脱走にも気付かないなんて酷い飼い主だと罵倒されるかと思ったのだけれども、彼女には本人が反省している以上に怒る気など無いという趣旨の事を話された。

 彼女がいなければ天然素材だったとしても命の危険があったし、脱走を繰り返せば誤飲以上に危険な事もあっただろう、本当に反省したし感謝している。


 ついでに茶々も体重計に乗せようかと思ってそのご機嫌を伺う様に手を下向けて差し出せば、間合いを取る様に直ぐに距離が離れてご丁寧に顔まで逸らされた。

 その様子を見ていた楚良が小さく口元に笑みを浮かべて、兎用の籠の置かれた体重計へと手を伸ばす。自分の隣へと置き、とんとんと籠の端を叩けば直ぐに茶々がその中へと入ってきた。


「はい、お疲れさま。今日の分は全部これで終わりですよ」


 その数字を確かめてノートに書き付けた彼女が声を上げ、籠ごと体重計から下ろせば直ぐに茶々がそこから飛び抜けて走り出し、一條の膝に座っていたサチがその尻を追いかける様にリビングを駆け抜ける。

 本当にあんな長距離走をしているからだろうか、明らかにここに通い始めてからサチの毛並みが良い。


「お腹空いてない?何か作ろうか」

「そう言って頂けるのは有り難いですが、多分冷蔵庫が空です」

「茶々ちゃんのご飯を少し貰えば何か出来ると思うよ」


 本当に彼女は油断すればサプリと水だけで良いのでは等と言い出すから困る、人と居る時にはとても良く食べるし出された物は残さず食べるというのにだ。

 それを知られるだけ距離は詰まってきたと思うべきだし、珍しく休みが取れた日曜日にこうして来てみても受け入れられるし、嫌われてはいないと思う。


 だがやはり恋愛的な意味でと言われれば疑問しか残らない。この関係は何なのだろうと一條が思ってみても、兎の身内にぐらいしか思われていないだろうという答えしか出て来ない。

 他の人間とは殆ど付き合わないと彼女の口から聞いたとしてもそうだ、自分が特別なのではなく、ただ単に彼女は兎の関係者にはこの様な感じなのだろうと。


 だったらこの関係に甘んじるか距離を置けば良いと思いそうなものだが、一條の中にはその答えは見つからなくて、職場でも私生活でも彼女が目に入る距離だというのに諦める意味もないとさえ思う。

 それでも、そこに彼女の意思は全く介在しておらず、彼女がどうしたいか知る手がかりさえ無い。

 本当に彼女がどういうつもりで自分と親しくしているか考えれば、また溜息。全くその気のない女の為に食事の準備をしているのはどうなのだろうと思ってみるが、兎の走り回るリビングでいつもより緩んだ様子でそれを見つめて居る彼女を目にすれば、これで充分だと思ってしまうのは最早恋など通り越しているのではないだろうか。


 指一本触れられない相手に、何を考えて居るんだと叱咤したい気分にさえなる。


「買い物とか行かなくても平気ですか?」

「パスタ程度なら作れそうかな。ツナよりクリーム系の方が良いよね?牛乳で作るから手抜きのレシピになるけど」

「相変わらず神がかった腕ですね?好みまで覚えて頂けて幸いです」


 椅子取りゲームの様に彼女の膝を取り合っていた兎達を床に下ろした楚良が、立ち上がってキッチンのカウンターから中を覗き込めば一條が冷蔵庫から材料を出しながら振り返った。


 見れば彼女が両手を合わせて拝んでいた。


 最初に会った日にクリーム系が好きだというのは、その印象と共に覚えている。その時は、彼女を自分の身辺を嗅ぎ回るストーカーだと決めつけていたと思い出せば心が辛い。

 その上彼女がストーカー被害に遭っていたかもしれないと聞けば、尚更にあのやり方は後悔しか産まなかった。見る目が無かったし、自惚れてもいた。見る目を養えとか外見で選ぶ等と部下に告げたのは、全部自分への言葉だ。


 偏見を取っ払ってみればよく分かる、終始彼女は一條に対して許容はしても何かを押しつけた事はない、と、思う。


「仕事柄一度言われた事は忘れない様にしてるよ」

「私なんか右から左ですよ、凄いですね」

 兎の事以外は、と彼女が付け足したのにそんな事はないと直ぐに過ぎる。それこそ兎と同じぐらいに、仕事での遣り取りも忘れていない風に思った。

 確かにメモ魔の様に書き記す癖はあるが、それは忘れない為というより間違いを犯さない為という風にも見える。


 皆が彼女に仕事を振りたがると羽柴が言っていたが、営業の中にも羽柴を通さず彼女に仕事を押しつけている人間が散見した。

 彼女への評価が気になって噂を消す次いでに色々と情報を集めていればその様で、釘を刺しておけば数日で効率がガタ落ちして頭が痛い。

 だからうちのは優秀なんだと何故か羽柴が得意げだったが、彼女から仕事が散れば少し手が空いた様で、こうして日曜日だけでも休める様になったらしいので部下自慢は甘んじて受けようと思った。


「出来たから手を洗っておいで」

「……早いです!」


 兎が彼女の後ろをついて回るのに合わせて楚良までリビングを歩き回っているのは、運動不足解消だろうか。

 どちらかのかは問わずにそれを見つめて居る合間に料理が終わって、声を掛けてみればまた驚かれた。だから手抜きだと言ったのにと笑う一條に、洗面所の方へと彼女が消える。


「盛り付けまで完璧なんですね?」

「勿論、いつもお世話になってる家主が喜んでくれる様にね」


 戻ってきた彼女が机に並べられる料理を見下ろしながら、また嬉しそうに呟いたのに一條が言葉をかけながらフォークを並べておく。

 兎の補食用の野菜をお借りしてパスタとサラダの簡単なものだが、手作りだと知った彼女はやはり嬉しそうだ。毎日冷や飯だと言っていた楚良は多分美味しい食事に弱いし、温かい食事に弱い。

 丁寧に手を合わせた楚良がフォークを取ってくるくると巻き付けているのが視界の中、同じ食事を取っている関係だという優越感があるとは彼女は知らない筈だ。


「そう言えば、旅行の準備って捗ってる?」

「いえ…まだ全然」

「まだ?明後日だよ、大丈夫?」

「一泊ですし足りない物はネットで良いかな…と」


 もぐもぐと口を動かしながら呟く彼女はその全身から面倒臭いとか、行きたくないとかいうオーラが漂っている。


 毎年会社で行っている慰安旅行は、今年は晩秋の温泉宿。勿論国内だしただの一泊だというのに彼女はとてつもなく嫌そうで、その理由は例に漏れず兎と引き離される事だ。

 一泊ぐらい徹夜常連の彼女にはいつもの事だろと羽柴が無理矢理ねじ込んだらしいが、彼女が最後まで兎に何かあった時に直ぐに帰れないと抵抗しているのが営業部にまで漏れ聞こえる程だったから、本当に嫌だったのだろう。


「ダメだよ、ネットは到着も確実じゃないんだから。車出してあげるから買いに行くよ?」

「えっ、ダメです。誰かに見られたらどうするんですか」

「どうもしない。じゃあ、遠出するから良いね?」


 します、等と言っている彼女の言葉は聞こえないふりをしつつ、パスタを口元へと運べば眉を下げた彼女の表情が目に入る。

 本気で面倒だとか嫌だとか考えているのだろう。楚良は本当に家から出るのが極短に嫌だったし、それが仕事以外というなら特にだ。慰安旅行なんて飲んで愚痴るだけの集まりに違いない。


「バッグはどの位の大きさ?」

「買ってません。いつもの鞄に詰めて行けばいいかなと」

「本当に君、兎の準備しかしてないんだ?」

「ばれました?」

「褒めてないからね」


 温泉宿でゆっくりできるし飲めもするなんて、他の人間の様にもう少し心躍っても良いだろうにと考えるのは一條だが、彼女自身はこの有様である。


「旅行は未経験なので準備する物が分かりません」

「食べたら食休みにリスト作ってあげるから、面倒くさがらずに行こうね」

「一條さんって菩薩か何かだったんですね…」

「菩薩でも神でも何でも良いから、準備してないと君が困るんだよ」


 渋っていたらしい彼女だが、そこまで言ってやっとはい、と大人しげな返事が返った。

 いい大人だし最初は色々手を入れて鬱陶しいと思われないだろうかという不安が一條にもあったが、彼女は本当に兎と仕事以外こんな感じだった。色々と私生活に関わってみたが、時間の全てを仕事やら兎やらに充てて満足するタイプだと言っていい。


 一條自身でもどうかしていると思うのが、彼女の足りない部分を補う事が嫌いでは無いという所だろうか。家事は出来るが他人の世話を甲斐甲斐しく焼くなんてご免だと思っていたが、彼女の生活に食い込むのは意味もなくじわじわと嬉しくなる。


「一條さんはいいお嫁さんになりますね」


 楚良からしみじみと告げられれば、一條がその顔を眺めた。だから少しは自分の発言に責任を持つべきだと思う程度に、全く気にしてはいなさそうだ。


「君もそっちを目指そうか」

「兎が結婚してくれるなら頑張ってみます」

「君って兎なら誰でもいいの?」

「――――…すごい質問がきました」


 サラダへとフォークを突き刺しながら彼女が瞳を瞬かせたかと思うと、次の瞬間にはその顔が真剣にテーブルの方へと落ちた。

 傍目に見ても分かる、本気で悩んでいる。


「レッキスは勿論最有力候補ですが、その中でも一昨年ショーで優勝したフィン君には一目惚れをしてしまいました。でも、やはり包容力と言えばコンチネンタルジャイアントラビットのニーズ君ですし、その息子のシュガーさんも捨てがたい。悲しいのはあの有名人が私を相手にしてくれないと言うところでしょうか」


「割と今、本気で考えた?」

「当たり前です。誰でも良い訳では」

「どの兎と結婚したいかで悩めるなんて、君の性癖を疑うんだけど」


 兎に包容力、と危うく口から漏れそうになったがそれは多分彼女の気を損ねるので辞めておく。悔し紛れに口からついた言葉が彼女の気を損ねないかはさておいて。


「放っておいて下さい、私が兎と結婚しても誰にも迷惑は掛けないんです」

 放っておきたい所だが、本気でフィン君とかニーズ君とかシュガー君と競わなければならないのか、遠くを見つめたくなる気分になって溜息が零れた。


「でも実際兎が結婚相手だと大変じゃないかな?」

「…そうですか?きっと幸せに暮らせると思うのですが」

「君が養わなきゃいけない訳だし、兎って凄く嫉妬深いし縄張り意識も強いよね。茶々ちゃんが大人しいだけで喧嘩も激しいし、通年発情期だし」

「完全にヤンデレ系ですね」


 ヤンデレ、と、パスタ片手に一條が呟いた。少し考えて、確かにそうだけどと思わず口から兎を擬人化するのを認めた様な言葉が漏れたのは彼女の毒が回ってきたのに違い無い。


「そのうち茶々ちゃんと自分とどっちが大事なのかって詰め寄られるよ」

 一度彼女の瞳が自分の可愛い家族の方へと向けられて、そして何度か瞬く。

「――――――――……どうしたら、…良いでしょうか…」

 その顔がみるみる泣きそうに曇って絶望的になり、その手が完全に止まったので思わず吹き出しそうになったが、何とか営業で培われたスキルで止めた。そっと彼女の方へと水のグラスを近づけ、一條も自分の兎の方を眺める。

 まだフィン君とやらとは結婚していないと思うのだが、旦那のDVを相談された友人の立ち位置だろうか。


「兎と結婚するのは辞めておこうか」

「私の夢が一つ絶たれました」

「そうやって大人になるんじゃないかな」


 他人が聞けば完全にくだらない冗句の応酬だが、少なくとも楚良は本気で悲しがっているし、それが一條に伝われば微妙な気持ちにもなる。

 とりあえず彼女の結婚相手が兎ではなくなった所だけは快挙だった、等と思って居る時点ですっかり毒されているのだが。


「ところで一つ聞きたいんですが、やっぱり慰安旅行でも皆さん潰れるんでしょうか?」

「会社提携の保養所じゃなかったら多分出禁になってる程度にはね。正直営業もほぼ全員ダウンするレベルだから、クリエイティブ部の方は残らないと思うよ」

「この間でももう二度と行きたくないと思った程度なんですが…!?」

 死屍累々どころか焦土と化すのかと、本当につい最近飲んだばかりだったのにと思わないでもなくて、行きたくない気持ちがまた増した。


「クリエイティブ部の中でもデザイン課って何故かお酒弱い人が多いからね。羽柴もそんなに強くないし、鳴海も直ぐ寝るし」

「そう言えば羽柴課長って元営業希望だったってこの間聞きましたが」

「そうだよ、人と話すのが好きな奴だからね。でもお酒に弱いのと経歴的にデザ課で充分っていうのが欠員とマッチしてあっちに配属されたんだよ。微妙な気分だったと思うけど、結果を残してああだしね」


 本当に凄いですねと彼女が呟いて、まあ、と一條が答える。全体的に低年齢でなければ生き残れない会社で、一條も羽柴も他の会社に行ってしまえばまだ役職は遠かったかもしれない。その中でも羽柴の経歴は異例というか、特殊と言っても良いだろうか。


「君はお酒、大丈夫なの?」

「自分がどれだけ飲めるのか分かりませんが、酔いより眠気が来るらしいです。普段は三時間も寝れば充分なのですが――――」

「………三時間?」

「三時間です。ショートスリーパーに属するのでしょうか?…言ってませんでしたっけ」


 彼女は色々と夜まで元気に動いているし、欠伸を噛み殺している様子はないと感心していた矢先に暴露された真実に思わずオウム返しになってしまった。

 しかしそこまで聞いて、僅かに首を傾げる。


「あれ、でもすき焼き食べた夜って…」

「何故か分からないのですが、一條さんが泊まった日は特別眠くなる事があるんです。多分夕食の食べ過ぎかと思うのですが」


 いつもではないと彼女が付け足しているし、確かにいつもではない。

 それでも彼女がコーヒーテーブルで眠って居るのを何度か寝室に運んだ事があるし、朝は大抵アラームをかけ忘れている彼女を起こしている記憶もある。

 時間が勿体ないんですと不満げな顔に、三時間、ともう一度一條が呟いた。


「次から晩ご飯には余り胃に残らないものにしてみるね」

「それはそれで切ない気持ちになります」


 眠ってしまうからもう来ないでくれなんて言われては嫌だと彼女に提案してみれば、珍しく悩んでいるげな彼女から返事が返る。

 彼女はがっつりとしたメニューで、しかも味の濃いものを好む傾向にあるのはここ最近で掴んできた。それが貧相になると考えて居るのだろうか、胃に優しくとも満足感のある食事を作るぐらい一條には訳がないのに。


 夕食内容に未練を残しつつごちそうさまでしたと両手を合わせた彼女が皿を下げようと立ち上がるタイミングで、一足先に立ち上がった一條が彼女の皿と自分の皿を重ねた。


「折角徹夜が出来ると採用して頂いたのに、こんなに眠ってしまっては」

「流石に毎日徹夜しろって意味じゃないし人並みに眠っても誰も怒らないよ。朝は起こしてあげるし、本当に眠っちゃダメな時には夕食でもアラーム代わりでも対応するからね?」

「流石にもう成人していますので、そこまでして頂くわけには」

「何言ってるの、僕の部下が君に勝手に仕事振ってた事も含めて、君に毎日食事を作っても一生かかるぐらいには迷惑を掛けてるって思ってるから。Chevalierも片付きそうにないし、サチもこんな感じだし、本当に出来る事があったら何でも言って」


 一生食事を作るなんてある意味突っ込んだ台詞に、彼女が珍しく口元に手を置いて悩んでいる風だったのでこれはもしやと思ってみたが、その真剣な表情のまま彼女が顔を上げて一條を眺める。


「一條さんに毎日食事を作って貰える権利とか、会社の女性に殺されます。まだ死にたくありません」


 本気で望んでくれないかと思ったが、多分この調子では無駄だろうと悟る。こういう期待はしない方が良いと何度経験すれば覚えるのか。

 例え本気で望んでくれた所で、毎日サチに会える権利の付属品がいい所だろうが。


「書く物持ってきて、君は休んでて良いから」

「お言葉に甘えて、兎のブラッシングを終わらせてきますね」

 彼女がテーブルの近くからメモとペンを取り出してテーブルの上へと置き、そのまま身を翻して兎達の所へと戻って行くのが見えれば一條の口から溜息。

 その手がブラシを持って窓の傍へと座れば、兎が大人しく順番待ちをしている様で、そして彼女は幸せそうだった。


 彼女が兎と過ごしている風景は独特の空気感がある、それをこうして見ていられる距離でいられればと自分には珍しく慎ましやかな願いだと思った。


 彼女が他人と話している時はそれが疼痛に変わるのだ、その感情に自分自身で気付かない様に一條は紙へとペンを落とした。

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