第2話 三角関係

 一度は結婚を意識した相手に別の恋人がいる、ということは、直樹を焦らせた。

 直樹はそれでも詰問はできなかった。

 アイリが自分を選んでくれるのでなければ、議論することに価値はない。


 アイリが自分の傍らにいることそのものが、直樹の望みだったからだ。

 うんと年を重ねたときになって、彼女がいきなり若い見知らぬ男と去ってしまったら、自分のそれまではどうなるのだと、思いやられる。

 だからこそ、彼女には自分の意思で、直樹自身を選んでほしかったのだ。


 ケーキと花束を持って誕生日に会ったし、今年のクリスマスも彼女の希望通りのコースに、船上ディナーショーを予約してある。

 彼女に、自分が一番だと言ってほしい。




 アイリを垢抜けさせたのは、直樹だった。

 ヘアサロンとネイルサロンを紹介した。

 それでも彼女は直樹の色には染まらなかった。


 それはそれで味があるし、直樹も気に入った。

 伏し目がちだった瞳がキラキラして、化粧も映えるようになった。

 ふくふくとした仔猫のように、長く豊かに波打つ髪は、品よく胸の前までたらされており、今日のように急に呼び出したときには、高々と結ってあったり。


 直樹には目を見張るばかりの容姿だ。

 穏やかさを感じさせるアルトの声もいい。

 あどけない表情から、大人っぽいセリフを聞かされると、身もだえしそうになる直樹だった。


 派手な目鼻立ちだけ見ていると、キャンキャンしてそうなものなのだが。






「でも、半分以上、理解できないヨ」


「そんなこと言って……顔がほころんでますよ」


「だってそのカード、ペテン師って意味デショ」


「そうでしょうか。どうでしょう……タロットでは、器用さを表すそうですが」


「それはマジシャンでしょ?」


「そうともとれますねぇ」


「さっきから、結論がコロコロ変わっているヨ」


 結論が変わるのは、直樹に迷いがある証拠だった。


「一緒に行きませんか」


「どこへ?」


「さあ、どこの教会がいいですか」


 あっけにとられるアイリ。


「その様子だと、誰とも行ったことはなさそうですね」


「それが?」


 今、アイリとつき合っている男は、彼女に本気を見せていないととれる。

 アイリは、直樹が贈ったシャンゼリゼの香水と、ネッカチーフを身に着けている。

 美しいものをただ美しいと唱えるだけでは、化粧の仕上がりより品質をほめるようなもので、決してかしこくはない。


 憎からず想う相手ならば、その瞳にひらめく光を、内面の輝きをたたえる、それがスマートだ。


「貴方はワタシが美しいから、つき合ってくれるの?」


「……もちろん、それだけではありませんが」


「うれしいワ」


 ハタチを過ぎて、こんなセリフを口にするのはうんざりだ。

 直樹は彼女とのつき合いに、興味をなくしかけていた。

 自分を脇においやって、ほほ笑みさえする彼女の存在は、直樹を居心地悪く、卑屈な気分にさせた。


 たまらなかった。





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