学校

 今日も学校の授業が始まった。

 皆、黙々と授業を受けている。かと思えば時々メモを回している子がいたりする。そこには私が以前いた世界と同じ光景が広がっている。


 しかし、全てが同じではない。探そうと思えば違うところはいくらでも発見できる。

トイレは私以外、誰も行かないのでいつもきれいで貸し切り状態だ。


 そして給食。食事をするのは私一人だけで他の人達は席に着き、大騒ぎしながら空の食器で音を奏でている。すっかり当たり前になってしまった光景だがこれがこの世界の常識だ。


 昼食の後の休み時間になった。今日は暑いのでだれも外には行かない。

 私たち3人も教室にいる。 


「もうすぐ夏休みだー」


 由夏ちゃんが今朝と同じ話題を出した。


「その前に期末テストね」


 それに対する、千怜ちゃんの返しも同じだ。


「夏休みは遊ぶぞー」


 由夏ちゃんは千怜ちゃんの言うことを無視した。


「遊んでばかりいないで夏休みの宿題もちゃんとやってね、写させないわよ」

「いちいちテンション下がること言わないでくれ」


 ついに我慢できなくなりつっこみかえした。


「夏と言ったら海だな。海行こうぜ海」

「いいわね、海」


 千怜ちゃんが同意した。やはり彼女も夏休みは一日中部屋に閉じこもって勉強ばかりしてるわけではないらしい。


「海かぁ」


 この世界の海はまだ見たことないけど、きっと汚染されてないからこの空と同じできれいなんだろうな。

 去年、いや800年前はいつもの5人で海に行き、うり坊が派手なビキニを着てきたのは良いが、トップが流されて大騒ぎになったのを思い出し、顔が緩む。


「今度水着買いに行こうぜ」

「わざわざ新しい水着を買わなくてもいいんじゃない?」

「千怜ちゃんはスクール水着を持っていくって事?」


 それは止めた方が良いと思う。去年私が経験積みだ。皆カラフルな水着を着用する中一人だけ、濃紺のネーム入り水着だと逆に浮く。それにただでさえお子様体型なのにそれが際立つ。


「千怜はスクール水着でいいんじゃ無いか、マニアが喜ぶ」

「海、行ってもいいけど二人とも錆びたりしない?」

「錆? なにいってんだ。気にするなら日焼けだろー」

「逆にこんがり焼くのもいいわね」

「そう、日焼けもするの。二人ともよくできてるね」


 つい、余計なことを続けて言ってしまったが、二人とも気にするふうもない。


「二人とも、普段家で何してるの?」

「そりゃ、漫画読んだりバラエティ番組見たり」


 由夏ちゃんも妹みたいに何も放送されていないテレビを見て、父が新聞を読む時みたいにみたいに何も書かれていない本をパラパラとめくっているんだろうか。


「何度も言うけど、もうすぐ期末テストなんだから勉強しなさい。私は試験前だけでなく普段から用意はおこたらないわ。油断しているとあっという間に受験よ」

「期末テストはともかく受験ねぇ、まだピンとこねえな」

「私もピンとこないなぁ」


 私も由夏ちゃんに同意したがそれは別の理由でだ。この世界に高校受験とか大学受験があるのを初めて知った。最初の頃の私は元の世界に戻れることを渇望していたが、いまではすっかり諦めている。マザーからは元の世界に帰る方法が見つかったという連絡は無い。


「それに受験って言ったって、みんな、地元の女子校だろ」

「あそこレベルが高いわよ、私や真央はともかく由夏は・・・・・・」


 由夏ちゃんが千怜ちゃんを見てわずかに後ずさった。


「やめろ千怜、菩薩のような優しい目でオレを見るな。いつものように罵りさげすんでくれ」

「いまからでも死ぬ程頑張れば由夏でも間に合うんじゃないかしら。もちろん夏休み遊んでいる暇は無いわよ」


 私は今二年なので受験は来年である。それについて大事な問題がある。


「みんな歳を取るの? 進級するの?」


 私一人だけが三年生になり、みんな今後も永久に中学二年を続けるんだろうか。


「そりゃあだれだって歳ぐらい取るだろう、取りたくねーけどな。あーずっと子供でいたい」

「大丈夫、心配しなくても由夏の脳みそはずーと子供よ」

「その代わりここは大人だけどな」


 彼女は胸をはってその盛り上がりを強調した。


「胸が大きい人は頭がパーってよく言うわよね」


 千怜ちゃんが肩をすくめた。


「その胸も作り物じゃないの」


 私は冷たく言い放った。


「まさに神が作りし芸術作品」


 由夏ちゃんは左手を腰に、右手を頭の後ろに回し上半身を軽くひねってポーズを作った。


「今日こそクレープ食べに行こうぜ」

 放課後、由夏ちゃんがいつものように買い食いを提案する。

「私は行かない」

「ん、どうした真央。お腹の調子でも悪いのか」

「そういえば今日給食残していたわね。いつも由夏みたいに絶好調というわけじゃないわよ」

「私は二人と違って食べると太るの!」

 買い食いするときは私一人で食べている。二人はフリだけだ。

「まぁ、食べたくないんならいいんだ、また今度にしよう」

 その日は買い食いせず帰ることになった。

 私も二人に付き合って食べる振りだけをすれば良かったかな。

 そのとき二人はどんな顔をするんだろう。

 自分たちのことはさておいて「おい真央、食べているふりなんかしてどうした。お腹痛いのか?」などと言うんだろうか。

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