学校

 学校の始業と終業を知らせるチャイム音は、日本の学校では大体同じものが使われているらしい。現に前の学校もこの学校と同じ音だった。元曲はイギリスのどこかの時計塔だと聞いたことがある。それがどんな曲なのか一度聞いてみたかったがもうその願いはかなわない。


 四時間目の終業を知らせるそのおなじみのチャイム音が学校中に鳴りひびくと、教室の空気が一気に緩んだ。それは、同時に昼休みの始まりを知らせるものでもあるからだ。

 立ち上がり大きく伸びをして腹減ったーと騒ぐ男子達。彼らに教師は特に注意することも無く、だらけた感じで終業の挨拶がおわり、皆そそくさと机の上のものを中にしまってお互いの机をくっつけ合った。


 何人かの生徒が白い割烹着とマスクを着用して教室を出て行き、しばらくすると手に手に銀色の食器の入った籠やスープやシチューを入れる大きい寸胴状の入れ物と、それを置くキャスター付きのテーブルを持って戻ってきた。


 彼らはそれらを教室の前に並べその前に立った。給食の配膳の始まりである。

 彼らの前に男子生徒達が先を争って並び、女子がその後に続く。


 まず並んだ人は自ら籠から銀色の食器を取り出して手に持ち、それを給食当番達に差し出して、その上に食べ物をのせてもらわなくてはならない。のせてくれたらベルトコンベアー式に横にずれ、別の給食当番が別の食事をのせる。全部乗せ終えたら自分の席に着き、全員に行き届いたら頂きますと合唱して食事が始まる。これが普通、給食の配膳に見られる風景である。


 しかしこの学校の給食には一番大事な要素が欠けている。給食当番達は彼らの食器には何の食料をのせないのだ。

 だからといって当番達が何もしなかったというわけではない。


 彼らはトングで銀の箱から見えない何かをはさみあげ、今か今かと待ち受けている男子達の食器の上で開いた。

 別の当番は寸胴の鍋の中身をお玉ですくい上げ、彼らの持つ銀のお椀へと注ぎこんでいる。 男子達は彼らが自分の食器に何も食事を乗せていないことに文句を言わない。ただ、この行為を受け入れている。


 男子達はついに給食当番に食事を配膳されることもなく、空の食器を持って自分の席に戻ってきた。だがその顔には困惑や怒りは浮かんではおらず、食欲を満たすのに意欲的な表情をしていた。


 男子に続いて女子の番になった。

 結局は全員に配膳が終わるまで、食事の時間は始まらないので遅くても早くても意味は無い。それでも女子の中では前の方に並んだ由夏ちゃんが「大盛りでな」と一言言って食器を当番に差し出した。だがやはり男子達と同じようにその上には何ものせられることはなかった。当番達はトングやお玉を入れ物から並んだ人の食器へとただ往復させるだけだった。


 しかし私の番になると、彼ら給食当番は少し違う行動をとる。


 私が食器を差し出すと彼ら給食当番は前の子達と同じように一旦銀の箱へとトングを差し込んだ。しかしそれを引き上げると、魚のフライが挟まれていた。これを私の食器の上でひらき、静かにそれを置いた。私が隣の当番の前に移動すると彼によって私の持つ銀色の食器に野菜炒めがのせられる。次はお椀に卵とわかめのコンソメスープが注ぎ込まれ、最後にデザートのカップ入りのプリンがのせられる。袋入りのコッペパンとマーガリンの小袋は自分で取った。


 私は食事が乗せられた食器を持ち席に着く。私の次に並んだはずの千怜ちゃんは他のクラスメート達と同じで何ものっていない食器を持って席に戻ってきた。先に席に着いていた由夏ちゃんに、プリン食べないならくれ、と言われたが、大好物だからあげないよ、とかわした。


 みんなが席に着くのを確認すると給食係の代表が「頂ますをしましょう」と合唱の合図をした。「頂きます」と皆が合唱して食事が始まる。だが実際に食べているのは食器の上に食べ物が乗せられた私だけで、食器に何も食べ物が乗せられなかった他の人は食事と言う行為ができない。盛んに話をしている由夏ちゃんも箸で空の食器をつついている。食事の時は静かにしなさいと注意する千怜ちゃんも、上品に手皿をして箸を動かしているが何も口に入れていない。


 これはこの学校に来ていつものように見る光景、こうして私一人だけの食事時間が過ぎていく。


 給食のあとの昼休みの時間が終わると、この学校には五時限目が始まる前に掃除の時間があり、各班に分かれて校内を分担して掃除をする。

 私たちにの班に割り当てられているのは自分の教室だ。しかし掃除の時間が始まってそうそう男子達はゴミを玉に箒をスティックに見立ててホッケーを始める。


「ちゃんとまじめにやんなさいよ男子ー。先生に言うからね」


 とそれを見た千怜ちゃんが腰に手をやり怒った。しかし肝心の女子である由夏ちゃんもその中に混じって即席ホッケーに興じている。


「それ」


 静かに私のうしろに誰かが忍び寄ってきた、その気配に気がついたときには遅かった。男子の一人により私のスカートがめくりあげられたのだった。


「きゃっ!」


 めくりあげられたスカートを慌てて両手で押さえた。


「うわ、熊さんパンツだ、小学生かよ」

「こら! おまえらのほうこそ小学生かよ、そんなに見たければオレのを見せてやる」


 由夏ちゃんが自らスカートをめくり上げながら、それそれと男子達に向かってずんずん進む。


「わっ、見せんじゃねーよブス。おまえのなんか見たくない」


 由夏ちゃんの行為に男子達は喜ぶどころかなぜか逃げ惑う。


「あんたもやめなさい、はしたない」


 千怜ちゃんは、スカートをめくりあげている由夏ちゃんの手をはたいてそれから離させた。


「せいぜいおかずにしろよエロ男子ども」


 ベーと由夏ちゃんは舌を男子達に出した。

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