本編

プロローグ 鼓動

 休息は必要不可欠なものである。

 それが必要なのは人間を含めた動物や植物などの生物、機械だけとは限らない。

 時として形のないものにも必要とすることがある。


 形のないもの、それはルールや規則や法律と呼ばれるものである。

 人間が集団を円滑に運営するために作られたそれらのシステムも、時には立ち止まり、動くのを止め、進路が正しいかどうかを見極める時間が必要である。


 皆で話し合ったわけではないのにもかかわらず自然に構築されるシステムもある。それは「街」という名前で呼ばれている。

 街とは人間が住みよいように作ったシステムの集大成であり、それはただ単純に「家」の集合体ということだけではなく経済活動、及びコミュニケーションの場としても最適に構築されている。


 これらのシステムには形がないものの永遠ではなく寿命がある。

 そして、街も例外なく成熟しきったあと老朽化がおこり、あとは自然に滅ぶのを待つかその前に新しいものへと再構築をする必要がある。


 休息の時間には普通、夜が当てられる。その時間にほとんどの人間が睡眠と言う名の休息をとっているからだ。


 この話の舞台となるその街も、今は降り注ぎそうな満天の星の下、新しい一日の活動に備え、体を休めつついつものように何者かからの指示を静かに待っていた。


『――シミュレーション終了――』

『――全プログラム201,358,922本のうち358,922本は廃棄とする――』

『――ー残り201,178,183本中10,543,903本は変更を加えて継続、残るプログラムはそのままで支障なし――』

『――更に新規プログラム670,194本を加え、モデル2018年年7月1日を開始せよ――』


 ある者からの指示が、休息中のこの街へと静かに伝えられる。

 そして、指示を受けたその街は、いつものように朝の日を迎える前に動き出した。


 先ほどまで全く人気がなかった道路に、前照灯を灯させた車がどこかからやって来てどこかへと消えた。

 新聞配達員をのせたおなじみの量産バイクが高いビートを奏で、静かで爽やかな空気を切り裂いてやってきた。彼らは花から花へとわたる移り気な蝶のように忙しく街を走り回り、それを操るものが各家の郵便ポストに紙の束を押し込んでいく。

 スポーツウェアに身を包み、早朝ジョギングにいそしむ人の姿も散見される。


 この街に休息時間の「夜」が終わり、活動期の始まり「朝」が訪れたのだった。

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