第2話 草原
眩しくて
朝か・・・・
先ほど見た夢を思った。
なんだったのだろう、あの変な夢は・・。
夢は無意識の自我が引き起こすとか、心にしまい込んだ抑圧された思いが出るとかいうけれど・・。意味不明過ぎる。
まあ、夢に意味を見いだそうとしても仕方がないか・・と、諦めた。
それにしても眩しい・・そう疑問に思うと同時に違和感を感じた。
枕をしていないし、背中がベットの感触では無い。
それに窓を閉めて寝たはずだが、そよ風を頬に感じる。
そして、小鳥の鳴き声が遠くに聞こえる。
ん?! 小鳥の鳴き声?
そんなはずは無い!
このマンションの周りは、カラスが鳴くだけだ?!
それにカーテンを閉めているはずなのに、眩しすぎる??
そう思い目を薄らと開いた。
目の前に眩しさを避けるために
その腕越しに青空が見える。
え?
慌てて腕を外し目を見開いた。
なぜに天井がない? 何時も見えるシーリングライトどころか天井が無い?・・
目の前には雲ひとつない真っ青な青空が見える。
!・・・
一気に目が覚め、慌てて上体を起こす。
目覚めた場所は、陽射しがそそぐ野原だった。
野原には花が咲き乱れ、微かな甘い香りが鼻孔をくすぐる。
500メートル位先に林があり、林の中から小鳥の鳴き声が時々聞こえてきた。
林の遙か遠くに少し雪が残る高い山が見える。
気温は寒くもなく暑くも無い、春の真っ只中のように思える。
太陽の位置から午前8時頃だろうか・・。
周りをゆっくりと見回す。
自分は野原の真ん中辺りにいるようだ。
野原はなだらかな丘で、林で囲まれていた。辺りに人影はない。
雰囲気は、どこか国定公園のような自然豊かな場所だ。
何故、こんな場所にいるんだろうか?・・
そういえば、寝始める時、闇に吸い込まれる夢を見た・・
そうか・・・
まだ夢の中なんだ。
そう思い、ホッとした。
服装は・・と見るとパジャマのままだ。
夢にしては気が利いていないなと、苦笑いをした。
立ち上がってみた。
裸足のため足裏に草花を踏み締めている感触がある。
夢にしては、妙にリアリティがある。
小さな花を踏んでしまい済まないと思うが、一面、花だらけなのでどうしようも無い。
さて、夢の中の俺はどうすればいいのだろう?
夢って普通、なんらかの事をしているんだよな・・
なのに、今、なにをして良いかわからない。
怖くも楽しくもない夢で、どうしろというのだろう?
こんな
だったら目覚めて欲しい。
なのに目覚める気がしない。
どうしろというのだろう・・
自分にお説教をしたくなる・・・・
はぁ・・ため息をひとつ吐いた。
すると遠くにある林の中から声が聞こえた。
遠くでよく聞こえないが、女性の声で何か叫んでいる。
そして、だんだんと声が大きくなってくる。
近づいて来ているようだ。
ただ、走って声を出しているにしてはおかしい。
息切れも無く、速い速度で近づいて来ているようだ。
エンジン音がしないから車などに乗っている様子はない。
不思議に思い、声のする方向を見ていると、やがて人の姿が林の中から現れた。
えっ、嘘!?
現れた人は馬に乗っていた。
馬は首を左右に振り、前後左右にすこし動きながら野原の手前で静止した。
馬が立ち止まると、馬上の女性は辺りを見回した。
髪はポニーテールにして、乗馬服・・・
馬上服ではなさそうだ。
何か和服のように見える。
すぐに女性は俺を見つけ、何か叫んだ。
そして、こちらに馬を走らせた。
乗馬なんて身近で見たことはないのだが、夢でこんなに乗馬を克明に想像できるものなのだろうか・・
そんな事を考えていたが、だんだんと顔が引きつってきた。
馬が近づくにつれ、馬の迫力が増してきたのだ。
音を立てて迫り来る馬は、正直怖すぎる。
蹴られて死ぬのではないかという恐怖がわいた。
思わず腰が引けて後ずさる。
「若!」
3mくらい近づいたところで女性はそう言って、馬の
馬はその場で数歩
馬が落ち着くと、女性は馬から飛び降りる。
「わっ! 危ない!」
思わず声を出した。
馬は身近で見るとでかく、そして高い。
そんな背中から飛び降りる華奢な女性を見たら誰だって叫ぶだろう。
「何が危ないですか、若!」
女性はすごい剣幕で怒鳴りながら、数歩手前まで走って来た。
うっ、怖い、なんか殴られそうだ。
一瞬、ちょっとさらに後ずさった。
女性は、その後、とんでも無い行動を起こした。
右足を立て、顔を俯けた姿勢で。
一瞬何が起きたのか理解できなかった。
そして、ハッとする。
誰かと勘違いしている、この女性。
それに跪くなんて、どこの社会のお偉いさんだよ・・。
おもわずアタフタとして声をかけた。
「あ、あの・・なにをしているのですか?」
女性は顔を上げキョトンとした。
美人だった。
年は・・高校生位の感じだろうか・・
女性は目を瞬き、不思議そうな顔をする。
「えっと、誰かと勘違いしていますよ?」
「若?」
「わか? 誰です、それ。」
「お戯れを・・」
そう言って拗ねた顔をする。
「あの、俺、小宮ですが?」
「からかっているのですか、知ってます!」
「えっ? 初対面だと思うけど?」
「若!」
女性は怒った。
なんで怒るのだろう?
首を傾げた俺を見て女性はため息をついた。
そして、ゆっくりと立ち上がり、口を開く。
「若、いくらお見合いが嫌だとはいえ、脱走はやめてください。」
「お見合い? あの誰が誰と?」
「若・・・」
「俺、若じゃないよ、
「若、
「いみな? 何それ、名前だよ?」
「若!」
すごい勢いで怒鳴られた。
怒鳴られたけど、綺麗な子に意味不明で言われても怖くはない。
「ともかく帰りますよ。
後でその変な服、誰から手に入れたか吐いてもらいます。」
「あの・・」
「はい! グズグズ言わない! 馬に乗る!」
「えっ、俺乗ったことない。」
「・・・若、いい加減に・・」
「だいたい君、誰?」
「えっ?」
「俺は君を知らないし、若なんて知り合いはいないんだけど。」
「わ、若?」
女性はやっと冷静に俺を見た。
「若、では無いと?」
「そう言っているだろ?」
女性は俺の目を暫し見た。
「本気で言っていますね・・」
「いや、本気も何も本当だから」
女性は黙り込み、しばらく考えていた。
困惑の表情だ。
そして意を決したように抱きつく勢いで近づいてくる。
「お許しを。」
そう聞いた瞬間、首筋に手刀を受けて気を失った。
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