フロートライン770



 この世界の、政治・経済の中心にある惑星ダーグーニーは、最大の星都市といわれるだけあって、とにかく広いんだということがわかった。

 大陸の数は、大小合わせて二十。さっきの船着き場はその一つにあるらしい。しかもこの大陸には、船着き場とそれに伴う宿泊施設、商業施設しかないのだ。

 俺たちは、人いきれのすごかった展望フロアを出て、エレベーターで、今度は下へ行った。

 サイズとはウェーバラという街で落ち合うことにしていたらしく、これから電車に乗るとジェノバユノスは言った。

 たしかに見た目は俺の知る電車だった。

 コンコースからせり出ているというトンネル状のプラットホームからそれに乗る。しかし、線路と呼べるものはない。見た目が電車に近い、空飛ぶ箱だった。

 結構席は埋まっている。ジェノバユノスに断って、俺が窓側の席をもらった。

 出発して、すぐ、窓に張りつくようにして振り返ってみる。デンシャの後方がしなっていて、さっきまでいた船着き場のコンコースも見えた。

 若干、俯瞰気味になったコンコースは、支柱の太いネジみたいなカタチ。人だかりのあったところはそのネジの天辺部分で、ドーム型の天井をしている。

 支柱には、俺が乗っているデンシャと同じやつが上と下に二本、トンネルに頭を突っ込んで、巻きつくようにして停まっていた。

 いま向かっているウェーバラという街は、ダーグーニーでは海の摩天楼と言われているらしい。

 いくつもの高い建物が海中から伸びていて、その建物は高級ホテルだったり、別荘だったりで、人の住む街というよりはお金持ちたちが集う歓楽街だそう。カジノや劇場、コンサートホールなど、さまざな娯楽施設が網羅されているそうだ。

 そういえば、乗客のほとんどが金持ちそうな立派な服装をしている。意外に、動物を連れている人も多い。

 このデンシャに乗る前、サイズはようやくアルドを出発したとジェノバユノスから聞いた。あのヒューマノイドについて、基地に常駐している治安局の人にいろいろ訊かれてなかなか出発できなかったらしい。


「さっきの人ってさ、やっぱジェノバユノスの知り合い?」


 席と席のあいだだったり、シート自体だったり、なかなかのゆったり感で乗り心地はいい。ほとんど揺れないし。

 窓の外にずっと釘づけだった俺は、ふと、さっき会った銀髪の人のことを思い出した。

 しかし、となりのシートのジェノバユノスからは返事がない。なにか深く考えごとをしているのか、ずっと同じところに視線をやって動かずにいた。

 俺の足元で、顎も伸ばして伏せの状態でいたインヘルノが頭を起こす。

 俺は首を傾げて見せた。

 そのインヘルノが口を動かす。


「ジェノバユノス」

「ん? ……ああ」


 インヘルノが喋った。

 そう驚いていた俺のほうへ、ジェノバユノスはやっと顔を向けた。


「名前は、レグ・オルダ」

「レグ──」

「レグオルダ少佐。治安局のトップの息子だ」


 思った通り、それなりに地位のある人だったんだ。

 というか、もちろん知らない人だけども、向こうは俺を知っているんだろうか。


「偉い人だよな?」

「まあ、そうだな」

「知り合い?」

「むかし、ちょっと……」


 詳しいことは話したくないのか、ジェノバユノスはその先を濁していた。

 そういえば、サイズもジェノバユノスも治安局にいたらしいから、そのときになにかあったのかもしれない。

 それも簡単には歓迎できないこと。さっきの態度から察するに。

 少し気がかりだったけど、いまは突っ込んで訊かないことにした。


「俺も知り合いだったりして」

「アキが? いや、面識はなかったはずだ」

「だよな。あ、あそこにいた人たちってもしかして、その少佐を待ってたのかな」


 ジェノバユノスは少し間を置いてから、曖昧に頷いていた。


「それもあるかもな」

「うん?」

「あの少佐は、サイズを出迎えるためにやってきたんだ」


 それを訊いて、俺はビショップの言葉を思い出した。

 サイズはこのダーグーニーで、ルキレナさんという女の人と、名前は言ってなかったけど、男の人と会うことになっている。

 その男の人があの少佐なんじゃないかと俺はぴんときた。

 ジェノバユノスもなにかを悟ったような顔をしている。

 どんな用事で会おうとしているのか。もちろん俺にはわからないけど、さっきのジェノバユノスの態度から想像すると、必ずしも友好的なスタンスではないんじゃないかと心配ばかりが浮かぶ。

 ただ、サイズがここへ来ている回数は俺よりはるかに多いはずだし、伊達や酔狂でやりとりしてきたわけがない。俺なんかが心配したって、お門違いもいいところだ。

 デンシャの天井から、柔らかい女の人の声が降ってきた。

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