1991からの制服
ジェノバユノスは、スロープを上がってサイズの船へ入ると、真っ直ぐに操縦室へ向かった。計器や、コンピュータ画面のたくさんあるあの部屋だ。
俺は、ジェノバユノスのあとについて操縦室へ入り、すぐに天井へ目をやった。球体のビショップはいない。まだ修理中なら、あの姿でいると思った。
「ビショップ」
ジェノバユノスは窓の前に立ち、操作パネルへ視線を落として呼びかけた。
しばらくして、落ちていた電源が一斉に点く。さまざまな色のランプも灯る。
俺の横に座っていたインヘルノが腰を上げ、ジェノバユノスのとなりへ移動した。
上からビショップの声がした。しかし、俺のわからない言葉だ。
ジェノバユノスが振り返る。
「ビショップ。アキがいるんだ。わかる言葉で話そう」
「わかったわ」
ジェノバユノスは、今度は操作パネルに浅く腰かけ、腕を組んだ。一瞬伏せた目を上げる。
「サイズがダーグーニーヘ行くと言っていた。なんの用か聞いてるか」
「会いたい方がいらっしゃるようよ」
「女か?」
「両方。男性の名前はおっしゃらなかったけど、女性はルキレナさんよ」
「ルキレナか……。あした、ダーグーニーヘ出発するんだろ?」
「その予定で、手続きはされたみたい」
「そうか」
「ジェノバユノス。もし一緒に行くなら、殿下に伝えておくけど」
そのビショップの言葉を最後に、二人の会話は、自然消滅したみたいに終わった。
電源が落ちる。電気も消えたけど、すぐに点いた。
次はダーグーニーというところへ行くのかとぼんやり考えていたら、ジェノバユノスと目が合った。
「アキ。今夜、お前はどこに泊まる?」
「え?」
それはジェノバユノスが決めてくれるんだろうと思っていた俺は目を剥いた。
「ど、どこって、俺もジェノバユノスと一緒の宿……とかじゃないの?」
「俺はここで寝るつもりだが、お前は、サイズのところへ行くかと思って。あっちのほうが明らかにふかふかのベッドだからな」
「サイズ……俺たちとは合流しないんだ」
「たぶんだめだろ。ここぞとばかりに、いろんなやつに捕まってるだろうから。都市開発のアドバイスやらスポンサーやらで」
皇子さまって、やっぱりどこへ行っても、大変な立場の人なんだ。ちょっと気の毒にも思う。
「俺もここで寝ようかな」
行っても邪魔になるだけな気もするし、一人になる時間がほしいかもしれない。
「じゃあ──」
と言って、ジェノバユノスは、携帯用の端末を取り出し、指を動かした。
「三十分後に食事に出かけるから、服を着替えるなり、風呂へ入るなりしろ」
「え?」
「お前、結構汚れてるし臭う」
とっさに襟ぐりを掴んで、俺はクンクン嗅いだ。……たしかにくさい。
白いシャツには、土がところどころついてある。しかもボタンが一つない。
ジェノバユノスに助けてもらったあのときから、頭も体も洗うものというのを失念していた気がする。
サイズの船にはちゃんと浴槽があって、いまはお湯も出るらしい。その場所を教えてもらって、着られそうな服も見繕ってもらった。
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