帝さまと后さま



 ジェノバユノスが連れていってくれたレストランは、すでに並んである数ある料理の中から、自分の食べたいものを好きなだけ取り分けられる形のところだった。

 サラダや肉や魚やパン。いろいろありすぎて目移りしてしまう。

 どういう料理かはわからなかったけど、匂いからして、どれもこれも美味しそう。俺は、大きめの皿に適当に取って、ジェノバユノスのいるテーブル席へ収まった。

 かなり広いフロアは、さまざまな格好の人でいっぱいだ。団体客みたいな集団もいれば、作業服の人もいるし、いかにもお金持ちっぽい服装の人もいた。


「このアルド基地ってところ、食事する場所、ここしかないのかな」


 俺は肉を食べながら、向かいのジェノバユノスに訊いた。


「いや。何カ所かある」

「ここってさ、いわゆる取り放題的な感じだろ?」

「ああ」

「なんか、ああいう金持ちそうな人も来るんだ」

「基地のレストランは、ほとんどがこういうシステムだ。一人一人に給仕係がついて食事が出されるのは、最上階にあるインペリアルフロアだけだ」

「それって、もしかしてサイズの泊まるとこ?」


 ジェノバユノスは無言で頷いた。

 人の声や食器の音が賑やかな中、俺たちはしばし静かに食事を進めた。

 そこへ、女の人のひときわ大きい声がした。このフロア全体にくまなく響くように、スピーカーから流れてくる感じだ。

 でも、なにを言っているか、俺にはわからない。

 視線を上へやると、壁に大きな画面が埋め込まれてあって、なにかの映像が流れていた。

 俺は、ちらちらと目をやりながら口を動かした。

 女の人が一人で喋るところがあったり、読めない文字が映ったり、どこかの景色や星の映像が出たりしている。


「ん? あれ、どこかで……」


 次に流れ始めた引きの画は、さっきアルド基地に着いたときに俺が見た、サイズを出迎えた人たちの姿だった。そして、そこへと近づく背中がクローズアップされる。

 一瞬、フロア内の声が高くなった。

 辺りを見渡すと、ほとんどの人が画面に目を向けていた。

 サイズが映っている。だれかと握手を交わして、笑顔でいる。

 俺はただびっくりして、声も出せなかった。そのうち、サイズは出てこなくなり、人のざわめきも普通に戻った。


「いまのって……なに?」


 黙々と食事を続けているジェノバユノスに訊いた。

 食べるのに夢中で、もしかしたら見てなかったのかと思ったけど、ジェノバユノスは、ああと頷いた。


「きょうのできごと──」

「え?」

「っていうニュース番組だ」

「サイズが映ってた」

「そりゃあ、皇子さまが来たら、ニュースにもなるだろ」


 そうか。そうなのか。

 とりあえず、自分は映ってなくてよかったと、胸を撫で下ろす。


「こりゃあ、港が騒ぎになるな……」


 と、呟くように言って、ジェノバユノスは長いパンをかじった。


「そういえば、少し気になったんだけど…

…ジェノバユノスと会った基地、変なやつらが襲ってきてたよな」

「ああ」

「あいつらって、結局なんだったのかな」

「あれは、無人の簡易基地ばかりを狙う強盗団だ」

「強盗……」

「俺が捕まえて、治安局に突き出してやったが」

「治安局?」

「ああいう強盗やら賊などの侵略犯、航行違反者を取り締まる機関だ」


 俺は、サイズの船に乗ってからの光景を思い出した。

 船に乗ってまで、しつこく追ってきたやつらのほうはどうなったんだろう。


「そいつらも、サイズが船の動画をきちんと撮って、画像を分析して、治安局に提出するだろうから、そのうち指名手配される」

「なんか、ジェノバユノスもだけど、サイズもすごいんだね。皇子さまというより、なんだろう、その治安局の人みたいだ」

「まあ、俺もサイズもいたことあるからな」

「え?」

「治安局の養成所の同期なんだ」


 なるほど、と頷いた一方で、俺は首を傾げた。


「サイズって皇子さまじゃん。……養成所なんて行くんだ」

「皇子といっても三番目だし、かわいい子には旅させろってやつじゃないのか。あいつは頭もいいし、運動神経も人並み外れてるから、中にばかり籠らせておくのはもったいないと、ミカドさまもキサイさまも考えられたんじゃないか」


 ミカドさまはサイズのお父上で、キサイさまはお母上だと、ジェノバユノスはつけ加えた。


「この世界は、一つ一つの星がそれぞれの法律を作ってはいるが、むかし、大きな戦争があってから、星間……星と星とのあいだって意味だが、星間基本法という法律も作った。そして、その法のもと、いろんな協定が結ばれ、統一前提世界となっている。治安局は、その統一前提世界に直接置かれてあって、星間基本法の刑法に触れた者を取り締まっている」

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