シングルオアメンバー

不本意なアナウンス



 ジェノバユノスの船がどこかへ着いた。

 ドアが開いて最初に目に入ったのは、横一列に並んだおんなじ服装の人たち。揃いもそろって体格がよくて、身の長い銃を持ち、箱みたいな帽子を被っている。ポケットがいっぱいついたカーキ色の服にズボン、ひざまであるブーツ。しかし、先頭の人だけはエンジ色のを着ている。

 その先頭の人の号令で、一歩後ろにいる全員が、持っていた銃を小脇に移動させ、深く腰を折った。

 まさしく一糸乱れぬ動き。

 そのお辞儀のスタイルは、サイズが俺に見せたのと違い、横にした拳を左胸の下に当てている。

 スロープを完全に降りたあと、なにかを呟いて、サイズはその人たちのほうへと歩いていった。俺もついて行こうとしたけど、ジェノバユノスに腕を掴まれた。


「アキ、俺たちはこっちだ」


 サイズを振り返ると、エンジ色の人と会話をしていた。でも、その表情は堅い。

 俺は、とくに深く考えることはせず、ジェノバユノスについて歩いた。

 ここは船着き場というところだろうか。

 天井はドーム型。壁と床の繋ぎ目がわからない、一枚の金属をラッピングして作ったような空間だ。

 ジェノバユノスの足が止まる。壁にあるタッチパネルに、あの端末をかざした。ぴっと鳴るや、半月を象る線が壁を走り、それによってできた二枚扉が斜め上方向へ吸い込まれていった。

 さらに技術が進歩しているところだと俺は感じた。

 目の前の背中を見上げ、ここがどこかと訊いた。


「アルド基地というところだ」

「基地?」

「この広大な宇宙に点在している、航行管制のために造られた星だ。いや、星というよりは球体の建造物に近い。宿泊施設や娯楽施設なんかもあるし、もちろん船のメンテナンスや修理もできる」

「ここ、なんとなくあそこに似てる」

「……あそこ?」


 ジェノバユノスは歩くスピードを緩め、俺を振り返った。


「うん。ジェノバユノスに助けられたとこ」

「ああ。まあ、あそこも基地だからな」


 意外というか、ここの基地の通路は結構な人が行き交っていた。

 とはいえ、俺たちみたいなフリーの格好の人は少なくて、大体が同じ作業服を着ていた。さまざまな形態のロボットや、たまに女の人ともすれ違う。

 俺たちは、さっきのような自動ドアを何基か越え、今度はエレベーターに乗った。

 上に着き、エレベーターの扉が開くと、真っ直ぐな廊下がずっと向こうまで続く。左右の壁には、短い間隔でタッチパネルがつけられてあった。

 その一つの前に立ち、ジェノバユノスは出入り口を開けた。小さな部屋だ。五人ぐらい入ったら、もう満杯になると思う。

 正面にディスプレーがあって、その下に、ノートくらいの大きさのタッチパネルがある。ジェノバユノスは、タッチパネルの横の小さな台に端末を乗せた。

 すると、なにも映ってなかったディスプレーに文字が現れた。


「ここは?」

「基地のフロントだ。このコンピュータから、宿の手配、レストランの予約ができる。あと、定期船の状況や、近辺の基地や星都市の情報も拾える。俺はいま、ビショップがどのブロックに収納されているかを調べている」


 タッチパネルを操作しながら、ジェノバユノスは言った。


「いたいた。小さな修理箇所は残っているが、あしたには出発できるそうだから、それほど問題はなさそうだな」


 ジェノバユノスは端末を取り上げる。ディスプレーはまた暗くなった。


「ところでアキ。さっき、モデュウムバリに行くと言っていたが、サイズのところに世話になることにしたのか?」


 基地のフロントだという部屋を出て、またエレベーターに乗ったところで、ジェノバユノスが訊いた。

 今度は下に進んでいる。さっきよりも長い気がする。


「うん。サイズが、よければ来ませんかって」

「なのにあいつ、自分の素性を明かしてないのか」

「あ、でも、ビショップがサイズのこと『デンカ』って呼んでた。最初はなんのことかわからなかったけど──」


 エレベーターが着いた。

 降りてから、俺たちはしばらく立ち話を続けた。

 ここも真っ直ぐの通路しかない。けど、例のタッチパネルは、突き当たりに一つしかない。


「オウジって意味だよね?」

「ああ。モデュウムバリの第三皇子だ。サイズというのはいわゆる略式名で、正式名は、スノー・アヴェルエ・イスー・ザナハ・モデュウムバリだ」


 サイズの名前が一気に豪華になった。しかも舌を噛みそうなくらい長い。

 とにかく立派な名前だ。

 俺は、サイズが一国の王子であるという事実に多少は怯みながらも、努めて気にしないようにして、言葉をつなげた。

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