自家用XL号

「それも大丈夫です。ちゃんと対策は考えています」


 と、サイズが言ったと同時に、少し離れたところにいるインヘルノが叫んだ。

 サイズも叫ぶ。

 そのとき、地面からうなりが聞こえて、さっき通ってきた森の土が盛り上がった。根こそぎ、木々がなぎ倒しになる。

 異変は、俺たちにも容赦なく迫る。地割れが伸び、こっちへ向かってきた。

 ムシの根ってやつだろうか。粘土質のようで、やっぱり植物にも見える長いものが勢いよく出てきた。バリバリと、それこそ雷のような音を発している。

 ていうか、ぜんぜん大丈夫じゃねえじゃん!


「アキさん!」


 迷わず、サイズの手を掴んだ。

 俺を抱えた状態で、サイズが地面を蹴る。しかし、着地できる場所はことごとく崩れ、俺たちは、断崖からダイブするような格好になった。

 サイズが、俺の額辺りで呟く。


「ビショップ……あいつの侵入を食い止められなかったか……」


 俺は、ぎゅっと目をつむった。

 ふと、体が浮き上がって、どこかへ吸い込まれる。目を開けると、背中がなにかに着いた。

 俺に覆い被さるように伏せているサイズの頭の向こう。澄みきった青が、徐々に閉じられる。

 息つく間もなく、見えない重さが体にかかる。俺たちが入れられたところが、ものすごいスピードで上昇していた。

 そのあと、また体が浮いたけど、サイズが俺の上で伏せていたから、ちょっとですんだ。

 周りが落ち着いても、サイズは一向に退かない。たぶん、エラい格好になっているんじゃないかと思う。


「ちょ、サイズ」


 シャツを掴むと、我に返ったように、サイズの頭が動く。

 そこへ、だれかの顔が逆になって、視界に入ってきた。


「大変なときに悪いんだが」

「ジェノバユノス」

「どうやら無事みたいだな」


 サイズが立ち上がる。

 俺もガバッと身を起こした。サイズがジェノバユノスと呼んだ男を、床に腰をつけたまま、まじまじと見上げる。

 ジェノバユノスというと、サイズの前に会った、髭面の男のことだ。

 ところが、目前にそびえ立つ男は、そのときとは似ても似つかないビジュアルをしている。

 髪は短くなってツンツンしているし、髭もきれいになくなっている。

 黒のシャツに、黒のズボン。サイズと同じで、革のような光沢のある細身のやつ。ブーツは筒が短めで、見るからに重そうでゴツい。

 幅広のベルトについている金具から、サイズは剣を吊り下げているけど、ジェノバユノスは、皮のケースに入った銃を二丁も着けている。


「それにしてもどういうことだ。ムシをつつくのがフライングすぎるだろ」

「船を出る直前、ビショップに侵入者があった。クラッカーだ。それにプログラムを読まれて、タイムラグが起きた」

「……何者だ?」

「わからない。立て込んでたから調べる暇がなかった」


 ジェノバユノスがこっちにも目をやった。

 サイズも振り返って、俺に手を伸ばした。その手を支えにして、俺は、よっこらしょと立ち上がった。

 あまりの出来ごとの数々に腰が抜けているかと思ったけど、普通に立てた。


「すみません、アキさん。僕のミスで危ない目に遭わせてしまって」

「……ミス?」

「ジェノバユノスと連絡を取り合っていて、本当は、この船に避難してから、あのムシを起こす予定でいたんです。ところが、思わぬ邪魔が入ってしまいました」

「クラッカーってやつ?」

「ええ」

「じゃあビショップは? インヘルノも、ビショップ二号もいない」


 大丈夫です、とだけ言って、俺を安心させるかのように、サイズは穏やかに笑った。

 それから、にわかに目つきを厳しくさせ、ジェノバユノスに顔を向けた。ぼそぼそと話し始めるから、俺は思わず聞き耳を立ててしまった。


「アルドまではどのくらいかかる?」

「十二はかかる」

「アルドへ寄ったあと、ダーグーニーへ行こうと思っている」

「どうした?」

「少し気になることがあるんだ」


 ジェノバユノスの返事がなく、俺がはたと顔を上げると、二人してこっちを見ていた。

 しかし、すぐに視線を外し、ジェノバユノスは操縦室へ、サイズは、壁に背をもたせかけて端末を見始めた。

 仕方なく、俺はキョロキョロする。

 サイズのと違って、この船は、ずいぶんこじんまりしている。食堂はべつとしても、ベッドやテーブルセットもなさそう。

 例えるなら、サイズのはキャンピングカーで、こっちは自家用車かな。

 となると、星と星を行き来するというのは、俺が思っているよりもずっと身近なものなのかもしれない。

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