侵入者

きみとあなたをうたう



 夢を見た。

 家族で食卓を囲んでいる夢。

 お母さんがいて、お父さんがいて、弟がいる。

 しかし、その顔には、あるべきパーツがない。目、鼻、口。

 どんな顔をしていたか、俺が思い出せないからなのか、夢の中でさえ、はっきりしたものを見せてくれないなんて、残酷すぎる。

 だったら、まだ、どこかの真っ黒い、真っ黒い穴に落ちる夢のほうがいい。

 お願い。

 俺に期待させるようなことは、そこへ引き戻すようなことは、やめてほしい。

 俺はもう、新たな世界に踏み出したんだから──。





 なにかの物音に気づいて、はっと目を開けると、部屋はまた暗くなっていた。

 眠る直前まで観賞していたホログラムもない。

 サイズが観せてくれたそのホログラムは、世界協定を結んでいる惑星の位置とビューイングというもので、とてもリアルにできていた。まるで、自分もその星々の一つになったみたいに。

 サイズの故郷の星は一番奥にあった。碧い大きな星。モデュウムバリ。

 モデュウムバリは、世界随一の美しさだと、サイズは言っていた。人の手の入ってない水流や湖や、森、原生林。南国の砂浜や、永久凍土。人の住む地域はごくわずかで、あらゆる生き物とうまく共存していくことによって、星をさらに美しいものとしている。

 サイズがそんな話をしているなか、俺はずっと、彼の首もとのペンダントに目をやっていた。

 そのペンダントは、始め、モデュウムバリの青なのかと思った。けど、微妙に違う。モデュウムバリは碧く、ペンダントのガラス玉は蒼い。

 そういえば、あのホログラムにも、俺の故郷だという星、「カナツ・ロイ」はなかった。

 しばしぼうっとしてから、俺は体を起こした。ベッドを降りようとしたら、その動きを察知して、ぱっと灯りが点いた。

 出入り口が開きっぱなしだ。

 サイズを真似て、あの灯りを持っていこうと思ったけど、そういえば手が届かないんだった。踏み台になるようなものもない。

 仕方なく、闇の中へと身を投じる。

 ほかの部屋はすぐに見つかった。食堂とは反対の突き当たり。扉が開いていて、灯りがもれていた。

 あの操縦室だった。


「とりたちは おおぞらではばたき さかなたちは たいかいでいぶく」


 うたが聞こえる。

 低く、ささやくような声。


「ひとびとはつがることのはをよろこび ははなるほしをはぐくむ」


 サイズの声だった。決してうまいとは言えないけれど。

 窓の前に二つある座席の一つに、見覚えのある茶色い頭があった。


「きみとであえたしあわせ あなたをしったくるしみ すべてたからもの」


「だから わたしはたつ このちでいきてゆく」


 俺とサイズの声がハモった。

 驚いた。知らず知らずのうちに、俺の口から、そのうたが出てきていたんだ。


「アキさん」

「俺、いまのうた知ってる。聞いたことある」


 興奮して、座席にもたれたままのサイズに駆け寄った。

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