あの星へ還ろう
「なんでもない。ていうか、これから自分の星以外で暮らしていくなら、そっちの言葉も必要じゃん?」
「そうですね……。なにか、そういうものを考えておきます」
いい匂いがしてきた。
サイズが出してくれたのは、ワンプレートに盛られたもの。丸いパンが二つと、ソースのかかったステーキ。そして、ソテーされた色とりどりの野菜。
銀色のコップに飲み物を注いで、サイズは、どうぞ召し上がってくださいと、手のひらを見せた。
「いただきます」
まずはフォークとナイフを使って、ステーキへかぶりつく。かなり熱くて、舌をちょっとヤケドしてしまった。けど、うまい。
「おいしいですか?」
「うん。すげえ、うまい。とくにこのソースが。サイズが作ったの?」
「まさか。船旅用のファストフードです。暖めればいいだけの」
サイズは、飲み物だけをそばへ置いて、スツールに腰を下ろした。
「食べねえの?」
「僕はさきほど食べました」
「ふうん。そういえば、サイズっていくつ? 俺より年上だよね、たぶん。てか、あれ。俺っていくつだっけ?」
「アキさんは、たしか十六だったと思います。僕は二十六です」
「なにしてる人? 俺を捜してたってことは、探偵? 警察? それとも、ボディーガード的な感じ?」
食べながら、矢継ぎ早に質問する。
答えにくいのか、言葉を選んでいるのか。サイズは、また難しい顔になった。
「んー。まあ、いいか」
「……」
「いろいろあったんだよね、俺たち。きっと。でも、その全部をいま話されても、すべてきちんと理解できるのは難しいと思う。新たな疑問が生まれて混乱するなら、サイズは、とにかく、ひとりぼっちの俺を捜してくれて、保護してくれて、こうしてご飯を食べさせてくれている。それでいいや。うん。ほんと、これおいしいね」
俺がにっこり笑って言うと、サイズは見開いていた目を伏せ、眉間にしわを寄せた。
「なんにも変わらない……」
「え?」
「いえ。元気そうで、本当によかったと思って」
サイズが無理して笑っているのがわかる。
ああ、もう。辛気臭いったら、ない。
ほんとは、そうして落ち込んでいたいのはこっちなのに、向こうがそんなだと、落ち込めるものも落ち込めやしない。
「サイズ」
「はい?」
「おかわり頂戴」
「は?」
「だから、これもう一個」
プレートを、サイズの前に押しつける。
サイズは閉口していた。ためらいがちにプレートを受け取ると、立ち上がった。
おかわりを用意してくれながら、背中越しに言う。
「アキさん。あなたさえよければ、ここから出たあと、僕の星へ一緒に行きませんか?」
「……」
「父も母も、あなたに会えるのを楽しみにしています」
サイズのその申し出には、俺は、二つ返事で承諾するしかなかった。
だって、頼れるのは、いまのところ彼しかいない。
一文なし、住むところもなしの俺に、選択の余地なんてあるわけもなかった。
サイズが俺の頭を撫でる。
勢いで頼んだおかわりにがっついてた手を、思わず止めた。
どうしてか、サイズの大きな手が心地よかったんだ。
心地よすぎて、危うく、涙が出るところだった。
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