ロイヤルブルーの瞳



 サイズが戻ってきた。

 俺が腰かけているベッドのところまできて、なにやら思案顔になった。

 なにから話せばいいのか考えているのだろうか。一つ、大きく息を吐く。


「あのさ、ビショップって、もしかして、あの金髪の女の子のこと?」


 向こうがなにか言う前に、俺は我慢ならず、そう訊いていた。

 サイズは、少し面食らった顔になっている。


「はい、そうです」

「あの子がこの船を操縦してたんだろ? なんか、すげえ感じだった」


 大きな窓の前で、なにかに取りつかれたように手を動かしていた彼女の真似を、俺はしてみた。陶酔して、なにかの楽器をひくみたいな、あれ。

 ちょっと大げさだったのかもしれない。

 サイズの表情が緩む。

 剣を取り外して、俺のとなりに腰をおろした。その弾みで、またベッドが上下する。

 手にした剣は、向こう側へと、そっと置いていた。


「あの子、ヒトじゃないのかな」

「え?」

「あ、いや、見た目は思いっきり人間なんだけど、なんていうか、俺とちょっと違うような」

「アキさんの言った通り、この船は、ビショップが操縦しています。彼女はヒューマノイドであり、この船のマザーコンピュータです。いまは、船の内部に浸透して、故障箇所を探索、修復中です」


 俺は、ただ目をぱちぱちさせて、サイズを見つめた。

 変だな。途中からなにを言っているのかわからなかった。


「うん?」

「ええと」


 サイズが、また深く考える顔になった。困ったようにしているふうにも見える。


「ごめん」

「いえ。ヒューマノイドというのは、いわゆるロボットの一つで……いや、ロボットよりも高度な知能、より人間らしいプログラムを持つ、コンピュータになります」

「うん。コンピュータね」

「ロボットは、そこにある──たとえば、公共の建物や乗り物など、大勢が利用する施設を司る、元のコンピュータの命令によってしか働きません。しかし、ヒューマノイドは、機械でありながら個々で考え、行動でき、ときには感情も表します」


 身振り手振りを交え、言葉を選びながら、サイズは説明してくれた。

 だから、完全には理解できなかった俺だけど、ふうん、へえと相づちは打った。


「で。やっぱり、この船はどこかに落ちたんだ?」

「落ちたというよりも、どこかの星に不時着しました。それもいま調査中です」

「ふうん」


 俺は天井を見た。


「どうしました?」

「外は雨なんだなあって」

「ええ。そのようですね」

「外って、どんななのかな?」


 ジャングル?

 砂漠?

 それとも都会の真ん中?

 でも、都会や街中だったら、とっくに大騒ぎになって、こんなに悠長になんかしてられないか。


「あいつら……。ほら、銃みたいなの持ってたやつら。あれ、なんだったんだろう」

「……」

「それに、あの人。最初の部屋で会った」

「ああ。ジェノバユノスですね」

「ジェノバ……ユノス」


 触ったらぎしぎししそうな長い髪、ぼうぼうの髭、その見てくれに合わない青い瞳を、俺は思い出していた。


「彼は、僕の友人で、あなたを捜すことに協力してくれていました」

「じゃあ、もしかして、この船に一緒に乗ることになってたんじゃ……」

「ええ、まあ」


 俺は肩を落とした。

 そのジェノバユノスという人は、たぶん、俺を助けようと、サイズの元へ無事に行けるようにと、それを邪魔するやつらから必死で庇ってくれていたんだ。


「心配は無用です。ジェノバユノスは、無事、あそこから脱出したようです。さきほど、その報せをもらいました」

「そっか……。よかった」

「アキさん」

「ん?」


 サイズは、とても神妙な面持ちで、俺を見た。

 いや。会ったときから比較的難しい顔ばっかりだった。いまは、それよりもさらに強ばっている。


「ありがたいことに、あなたは、僕の言葉を信用してくださっているみたいですが、本当のところはどう思われていますか?」

「……」

「あなたには記憶がない。もしかしたら、僕やジェノバユノスのほうが悪者かもしれない、とは思われませんか?」


 サイズは、また、いまにも泣き出しそうな顔をした。

 そんな、他人に簡単に弱いところを見せるやつが、悪者のわけあるか。

 それに──。


「ジェノバユノスは、たしかに武器を持っていた。でも、決して、それを俺に向けることはなかった。あいつらは、なんの迷いもなく銃口を向け、発砲した。そっちのほうが悪いやつに決まってる」

「……」

「って、考えじゃ、だめ?」

「いいえ。ありがとうございます」


 サイズはそう言うと、それまでぴんと伸ばしていた背を一気に縮めた。前屈みになって、脱力する。

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