SOS団とボカロ

しお松

長門有希篇

ボーカロイド。

それは、人が作りロボットが歌う、なんとも不思議な曲達の、ロボットのことである。

そんなボーカロイド、通称ボカロに、私は心を奪われた。

心、とはどういうものなのかはよくわからないけれど、とにかく人間有機生命体の言葉ではそういうらしい。

きっかけは、彼が歌っていた歌だ。

――――――――――――――――――――

ジーーーッ

「~♪…どうした、長門」

「その歌」

「あぁ、これか?」

頷く。

「これはな、ボカロ、っていうやつなんだ」

「ボカロ?」

「ボーカロイドのことだ。世界で話題になってんだぞ」

「そう」

――――――――――――――――――――

家に帰り、早速聞いてみる。

「……この感じ」

曲が流れる。

『誰かの心臓になれたなら』だ。

私はこの感情を知りたかった。

―それは、共感。貴方はその歌の主人公に自分を重ねているの―

共感。

「こんな世界と嘆く誰かの―」

ゆっくりと、歌い出す。

彼の笑顔が、重なる。

思い出として、甦る。

大丈夫、声の範囲は拡げてある。

「生きる理由になれるでしょうか」

ああ、そうだ。

この歌の人と、私は一緒だ。

改めて、人間有機生命体の凄さを実感する。

「これは僕が、今君に送る」

私が、彼に送る。

「最初で最後の愛の言葉だ――」

最初で、最後。

最初で、最期。

この気持ちを打ち明けたら。

情報統合思念体は、エラーとして私を消すだろう。

死ぬ、という概念は私には理解できない。

でもこれは。

―悲しさ。彼に伝えた途端消され、彼の返事を聞けない悔しさ―

[じゃあなぜ私にはあの水より寂しい粒が出ないの?]

―情報統合思念体によってそう設定されたから―

ならば。

私は、待つ。

水よりもっと寂しい粒が出るようになるまで。

そうしたら微笑むことも出来るだろう。

「あぁ、永遠なんてないけど――」

永遠なんてない。

所詮私はヒューマノイド・インターフェースなのだ。

「思い通りになりはしないけど――」

思い通りに行くわけではない。

それは、私の力なら可能だ。

ただし、情報統合思念体に基づく。

「弱く脆い糸で繋がれた、次の夜明けがまた訪れる――」

どんなに頑張っても、明日は来る。

「どんな世界も君がいるなら、生きていたいって思えたんだよ――」

私のSOS団に対するモノは、日々変わっていく。

それは、彼のお陰でもあるのだ。

「僕の地獄で君はいつでも、絶えず鼓動する心臓だ――」

私の鎖に縛られた三年間は、彼のお陰で少しずつ解けた気がする。

「あぁいつしか君がくれたように、僕も誰かの心臓になれたなら――」

私も。

こんな私でも、彼の意味になるのなら。

情報統合思念体にとっては悪いかもしれない。

でも、私にとってはいいことだ。

もう少し、このままでいさせて。

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SOS団とボカロ しお松 @siori1027

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