第538話 子供の顔に落書きして喜ぶような奴は対象外

「助けてえ!」


 二十歳はたちぐらいの女が、悲鳴を上げて廃工場から駆け出してきたのは、ダニを縛り上げた時だった。


 その直後、女が出てきた出入り口が、轟音ごうおんを立てて砕け散る。


 立ちこめる粉塵の中から、ミクを肩に乗せたアクロが出てきた。


 どこで見つけたのか、目と口の辺りに穴を空けた皮袋をミクはかぶっている。


「待てえ! よくもあたしの可愛い顔に、落書きしたわね! 絶対に、許さないんだから!」


 女は僕たちを見つけると、こっちへ向かって駆けてきた。


「ボス! 助けてください!」


 ダニは、疲れたような顔を女に向ける。


「すまんが、見ての通り助けてほしいのは俺の方だ」

「そんな……」

「それに、俺は散々言ったよな。子供の顔に落書きすんなと……言いつけを守らないから、そんな目にうんだ」


 女は、僕の方に視線を変える。


「じゃあ、そっちの金色の旦那。助けて下さい。勇者カイトって、女には優しいんでしょ?」


 戯言たわごとを言っている女の胸ぐらを僕は掴む。


「え? あたいをどうすんの? あたいは女よ。女は、殴らないのでしょ?」

「あいにくだな。僕が優しくする女は、可愛くて若くて、性格の……良い女だ」


 ミールやPちゃん、芽依ちゃん、ミクの性格が良いのか疑問はあるが……


「少なくとも、子供の顔に落書きして喜ぶような奴は対象外」

「そんな」


 とりあえず、僕は女を縛り上げてミクに引き渡した。


「ところでキラ。ミーチャはどこにいる?」

「自警団の待機所に残してきた。こいつを」


 キラはダニを指さす。


「捕まえたら、ミーチャの通信機に連絡する事になっていてな」

「なに? じゃあ、自警団と連絡が取れるのか?」

「ああ。というか、今私の本体が連絡したところだ。もうすぐ、自警団のメンバーが数人来ることになっている」

「もう一度連絡してくれ」

「どうして?」

「廃工場の中に、誘拐された子供たちがいるんだ。子供たちを乗せる乗り物と、それとできれば医者を呼んで欲しいと」

「分かった。伝えておく」

「頼んだぞ。僕はちょっと廃工場の中を見てくるから、ミクと一緒にミールのいるところまで戻ってくれ」

「分かった」


 僕はダニに案内させて、廃工場内へと入っていく。

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