第539話 怒れる海斗

 ドローンで内部を偵察した時から、気になっていたのだ。


 子供達の事が……


 この事はアーテミスの自警団に任せるべきであって、僕の出る幕ではないかもしれないが、それが来るまで時間がかかる。


 今現在も、病気で死にかけている子供がいるかもしれない。客の相手をさせられている子供もいるかもしれない。


 いるなら、助けたいし、客もいるなら直ちにぶっ殺すつもりだ。


 ダニは、観音開きの鉄扉の前で立ち止まった。


「子供達は、この部屋だ」

「開けろ」

「鍵が掛かっている。今、俺は持っていない」

「中に、おまえの部下はいないのか?」

「さっきの戦いで、全員出て行った。見張りはいない」

「そうか」


 鉄扉を観察してみた。


 四カ所の蝶番ちょうつがいを破壊すれば開けられそうだな。


「ブースト」


 ブーストパンチで蝶番を破壊した後、扉が内側に倒れないように引っ張って外側に倒した。


「ひええ!」


 倒れてきた扉が、ダニにぶつかりそうになる。


 ちっ! けたか。しぶとい奴だ。


 部屋の中に視線を向けると、そこに子供達がいた。


 五歳ぐらいの子から、十二歳ぐらいの子まで。


 ほとんどが女の子だ。


 男の子も何人かいる。


 どの子も、みんな希望を失った虚ろな目をしていた。


 ロボットスーツに外気を入れてみると、ひどい悪臭がただよっている。


 僕はダニの胸ぐらを掴んだ。


「これはなんだ!? こんな酷いところに、子供たちを置いていたのか!」

「お……俺は知らん。子供たちの世話は、部下に任せきりだったので……」

「部下のせいにするな!」


 ブースト抜きのパンチで、ダニを殴り飛ばした時、背後で扉の開く音がした。


五月蠅うるさいぞ! 静かにしろ」


 背後の扉から、豚のように太った帝国人の中年男が出てくる。


 僕は、床の上でうめいているダニの襟首を掴んで引き起こした。


「こいつは、おまえの部下か?」


 ダニは首を横にふる。


「客だ」


 それを聞いて僕は、豚男を押しのけて背後の部屋に入った。


「な……なんだよ? 僕は客だぞ」


 部屋の中には、全裸にされた十歳ぐらいのナーモ族の女の子が泣いていた。ここで何が行われていたのかは、一目瞭然。


 腹の底からフツフツと沸き上がってくる怒りを、もう押さえる事ができない。


「キサマ!」


 僕は、豚男の胸ぐらを掴む。


「この子に、何をやった!?」

「な……なんだよ? やる事なんて決まっているだろ。僕は金を払っているんだ。文句を言われる筋合いは……」

「黙れ!」


 豚男を床に投げ飛ばした。


「痛い。僕にこんな事をして、ただで済むと思っているのか? 僕のパパを、誰だと思っている」

「知るか! ボケ!」


 豚男のわき腹を蹴飛ばした。ブーストはかけていないが、かなり痛がっている。


「痛い! おまえ、パパの名前を聞いて驚くなよ。僕のパパは……」

「言わんでいい! どうせ覚えん!」

 

 男が父親の名前を言う機会など与えず、僕はブーストパンチで男を吹っ飛ばした。


 そのまま男は、動かなくなる。


 その様子を見ていたダニが、僕の方を振り向いた。


「こいつの父親は、アーテミス評議会の議長なのだが……」

「で? それがどうした?」

「あんたには、どうでも良いことだったな」

「客は、まだいるのか?」

「今日は、十人ほど……」

「案内しろ。全員ぶっ殺す」

「最後に、俺も殺すのか?」

「おまえは殺さない。まだ利用価値があるからな」


 まあ、状況次第では『殺さないと言ったな。あれは嘘だ』と言って、殺すけど……

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