第537話 毛布の下に隠れているのは
ダニの部下達は、
担架の上にミクがいるのか? しかし……
部下たちは、担架を地面に置く。
それを見て、ダニはニヤリと笑った。
「さて、カイト・キタムラよ。小娘の命が
「ちょっと待て。それ、本当にミクなのだろうな?」
「え?」
ダニは、担架の方を振り向く。
地面に置かれた担架には、毛布がすっぽりと
毛布の下には誰かいるらしく、もぞもぞと動いてはいるが、顔も手足も見えない。
「おまえの部下に、毛布を被せているんじゃないのか? 顔を見ないうちは、納得できんな」
「いや、ちょっと待ってくれ」
ダニは、部下たちの方を向いた。
「おい! 何をやっている! さっさと、毛布をひっぺがせ」
「それが、顔を見られるのが恥ずかしいと言って……」
「なに? なぜだ?」
「顔に落書きをされたとか言っていて、俺たちが部屋に入った時には毛布を被って震えていたんです。で、『大人しく担架に乗るから顔は見ないで』と言うから、このまま連れて来たのですが」
「落書きだと? おい! 小娘の見張りは、誰にやらせていた?」
「へい。モロゾフの娘に」
「あの馬鹿娘に、やらせたのか」
「まずかったのですか? 野郎に見張りなんか任せると、小娘に手を出しかねないと思って任せたのですが」
「まあ、野郎に手を出されるよりマシだが、あのバカ娘も子供の顔に落書きして喜んでいる奴だからな。商品価値が下がるからやめろと何度言っても治らねえ」
ダニは、僕の方をチラっと見た。
「とにかく、顔を見せないとこいつが納得しない。嫌でも毛布を引っぺがせ」
「へい」
部下たちが毛布を引っ張った。
しかし、毛布の下の人物は
「大人しく出て来い」
「イヤ」
ん? この声?
「ちょっと、顔を見せるだけだ」
「イヤだって」
突然、毛布が裂けた。
裂け目から出てきたのは……
「言っているだろう!」
ミクではない。耳まで裂けた口に、牙を生やした女。
戦闘モードになったキラの分身体だ!
という事は、救出は成功していたのか。
ついでにミクと入れ替わっていたとは……まったく脅かしやがって……
「うわあ! バケモノだあ!」
そう叫んだ男は、キラに噛みつかれた。
キラはそのまま男の首を噛み千切る。
続いて、逃げ惑う男達を次々と噛み殺していく。
近くにいたダニ以外の男たちを皆殺しにしたところで、キラは大きくジャンプして僕の
着地した時には、普通の顔に戻っている。
ただ一人生き残ったダニは、地面にへたり込み恐怖に打ち振るえていた。
「キラ。ミクはどうした?」
「気付け薬を嗅がせてから、ベッドの下に隠した。そろそろ起き上がる頃だ」
「連れてこなかったのか?」
「顔に落書きをされていたのは本当だ。あの顔を、人に見られては可哀そうだからな。目が覚めたら顔を洗うようにと、書置きを残して置いた。もちろん、憑代と回復薬と通信機もいっしょに。ああ、落書きをしていた女なら、縛り上げて便所に放り込んでおいたぞ」
「それはいいが、書置きって? キラ。日本語を書けたのか?」
「いや。帝国語で書いたが」
「ミクには、読めないぞ」
「あ!」
通信機が鳴ったのはその時……
通信相手はミク!
『お兄ちゃん。来てくれたのね』
「ああ」
『でも、なんで連れ出してくれなかったの? 回復薬と憑代と通信機が置いてあるのは見つけたけど』
「ミク。近くに鏡はないか?」
『鏡? 鏡がなにか……キャー! 何よ? これ!』
とりあえず、事情を説明した。
『分かった。顔を洗ったら戻るね。あら? お姉さん、こんなところで何しているの?』
ん? 何があったんだ?
『あ! ちょっと。どうして逃げるの? 変なの? ああ! このおトイレ、水道がないよ』
「ミク。今、誰と話していた?」
『おトイレの中に、縛られている女の人がいたから助けてあげたのだけど……』
「その女が、落書きの犯人だ」
『なんですってえ!』
ミクはそこで通信を切った。
数秒後……
ドドーン!
廃工場から、大きな音が響きわたる。
アクロを召還したな。
さて。
視線を戻すと、足音を忍ばせて逃げようとするダニの後姿が目に入った。
「おい。このまま逃げられるとでも思っているのか?」
ダニは、壊れた人形のようなぎこちない動きでこっちを振り向くと、愛想笑いを浮かべていた。
愛想笑いを浮かべながらも周囲を見回すが、目の届く範囲に奴の部下は一人もいない。
死んだか、逃げ出したかのどっちかだ。
仲間が一人もいない事を認識したダニは、僕の前に
「俺を、家来にしてくだせえ」
「断る」
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