第366話 おとなしくしろ!

 以前 《マカロフ》攻撃の時にもレーザー攪乱幕を使ったが、今回はあのときよりも遙かに金属箔が濃密になっている。


 レイホーは『大盤振る舞い』と言っていたが、振る舞い過ぎだ! レーザーどころか視界まで遮られているぞ。おかげで敵の姿も見えない。


 しかし、居場所は分かった。


 なぜ分かるかというと、さっきからレーザーをでたらめな方向へ撃ちまくっていたから……


 本来見えるはずのないレーザーだが、攪乱幕の金属箔や微粒子にレーザーが当たると白熱するために見えてしまうのだ。


「芽依ちゃん」


 呼びかけたが返事がない。


 まずいな。電波も遮られている。


 左を見ると桜色のロボットスーツがうっすらと見えた。


 ホバーを使って近づき、芽依ちゃんの腕を掴む。


 こっちへ振り向いた芽依ちゃんに、有線通信用のケーブルを差し出した。


 芽依ちゃんは受け取ると、首にあるコネクタに接続する。


「芽依ちゃん、聞こえるかい?」

『はい。聞こえます』

「攪乱幕が濃すぎた」

『ええ。これはちょっと想定外でした。それよりあの人』


 芽依ちゃんはレーザーを撃ちまくっている奴を指さした。


『完全にパニックに陥っていますね』

「逆にチャンスだ。視界が遮られているから囮役はいらない。二人で背後から近づいて一気に押さえつけよう」

『了解です』


 ホバー機能を使って奴の背後に回り込んだ。


 小柄な奴だな。子供か? とにかく……


「おとなしくしろ!」


 右腕を僕が、左腕を芽依ちゃんが押さえつけた。そのまま、手首を軽くひねり上げてレーザー銃を取り上げる。


「うわ! なに!? あんたたち!」


 え? こいつ、女の子?


 レーザーを撃っていたのは十代前半ぐらいの女の子だった。


 うわ! 拳銃を抜いてきた。


 よせ! フッ化重水素レーザー銃に弾が当たったら、大惨事だぞ!


「やめなさい!」


 女の子が引き金を引く前に、芽依ちゃんが拳銃をたたき落とした。


 女の子は痛そうに、叩かれた手を押さえる。


「痛てて……うわ!」


 芽依ちゃんはさらに女の子の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


「あなたねえ、フッ化水素レーザー銃に向かって銃撃するなんて、なに考えるかですか!? 馬鹿ですか!? 死ぬのですか!?」


 ううん……普段怒らない人を怒らせると怖いと聞いていたが、芽依ちゃんも怒らせると怖いな……


「え? え? え? なに? あたい、何かまずいこと……した?」


 女の子は状況が飲み込めないでおろおろしていた。


「分かってないのですか? 自分がなにをしようとしたか」

 

 いかん!


「芽依ちゃん、落ち着いて、落ち着いて」


 芽依ちゃんが振り上げた拳を、寸前で押さえつけた。


「は! 私ったら、つい……カッとなって、すみません」


 冷静さを取り戻したが、女の子を押さえる手は放さない。


 まあ、とりあえず、レーザーは止めた事だし……


「ミク。レーザーは止めた。出てきて大丈夫だ」

『うん。分かった』


 程なくして、金色に輝く竜に乗ってミクが降りてくる。


「出よ! 式神」


 アクロを召還したが……


「ミク。アクロは役所の中に入れるのか?」

「大丈夫だよ」


 アクロはみるみる小さくなっていった。


 小さいと言っても身長二メートルはあるけど……便利なものだな。


 ミールの分身体も小さくなったから、ミクの式神もできるのではないかと思っていたが……


「じゃあ、お兄ちゃん。行ってくるね」


 アクロを連れて、ミクは屋敷の中に入っていく。

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